あずーるの物置

作品置き場(予定)

ボイスドラマ用シナリオ『scenario』

scenario

魔法使いカリヤは、宿命のライバル、エーデルワルス=ルートヴィヒ・ラインハルト(名前が長い)と相対していた。世界を救うのは、誰だ。【不問2】

 

□登場人物

・カリヤ
・エーデルワルス=ルートヴィヒ・ラインハルト

※ボイコネペアシナリオ投稿コンテスト(2020)投稿作品。

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◇宇宙空間の様な不思議な場所に、石造りの円い足場が浮かんでいる。
 カリヤはそこで、宿命のライバルであるエーデルワルス=ルートヴィヒ・ラインハルトと相対していた……。


エーデルワルス=ルートヴィヒ・ラインハルト:さあ、いよいよこの時がやって来たね……。
カリヤ:……。
エーデルワルス=ルートヴィヒ・ラインハルト:ボクはね、カリヤ君。君が気に入らなかったんだ……初めて会ったあの日から。
カリヤ:……そうかよ。


 カリヤは強い意思の宿った眼差しでエーデルワルス=ルートヴィヒ・ラインハルトを見据える。


エーデルワルス=ルートヴィヒ・ラインハルト:そう……その目だ、その態度だ!気に入らない……実に気に入らないよ。
カリヤ:……。
エーデルワルス=ルートヴィヒ・ラインハルト:……まあいいさ。そんなことは今にどうでもよくなる。
エーデルワルス=ルートヴィヒ・ラインハルト:ボク、エーデルワルス=ルートヴィヒ・ラインハルトと……君。
エーデルワルス=ルートヴィヒ・ラインハルト:この戦いに勝って!生き残って!未来を紡ぐのはどちらなのか!!今ここで決めようじゃないか。
カリヤ:……その前にひとつ良いか?
エーデルワルス=ルートヴィヒ・ラインハルト:なにかな、カリヤ君。
カリヤ:その、なんというか……
エーデルワルス=ルートヴィヒ・ラインハルト:うん?
カリヤ:名前が長い。
エーデルワルス=ルートヴィヒ・ラインハルト:ううん?
カリヤ:いや、だから名前が長い。
エーデルワルス=ルートヴィヒ・ラインハルト:何を言っているんだい、カリヤ君。『(指折り数えて)か・り・や』、三文字なんてむしろ短い方だろう?
カリヤ:いや、お前の事だよ!なんで気づかないんだよ!!
カリヤ:『(指折り数えて)え・え・で・る・わ・る・す・イコール・る・う・と・ヴ・い・ひ・なかぐろ・ら・い・ん・は・る・と』……二十一文字もあるじゃないか!!喋る度に台本の文字数を圧迫してるんだよ!!
エーデルワルス=ルートヴィヒ・ラインハルト:な……メタ発言は止してくれないかな?それに喋っているボクたちには名前の長さなんて関係のないことだろう?
カリヤ:いいや、関係あるね!読んでて目がチカチカしてくるんだよ!どうしてくれるんだ!
エーデルワルス=ルートヴィヒ・ラインハルト:どうしてくれるって……(咳払い)カリヤ君、聞きたまえ。この名前にはボクの父が込めた深い意味があるんだ。まず『エーデルワルス』とはかつて内海に存在した――
カリヤ:知らないよそんなの!そもそも名前より台詞の方が文字数少ないことがあるって意味が分からないんだよ!!端末によっちゃ名前だけで二行いってるんじゃないのか、ええ!?
エーデルワルス=ルートヴィヒ・ラインハルト:君、落ち着きたまえよ……
カリヤ:はぁ……はぁ……
エーデルワルス=ルートヴィヒ・ラインハルト:……大丈夫かい?
カリヤ:お前一旦黙ってくれ。
エーデルワルス=ルートヴィヒ・ラインハルト:酷いな。
カリヤ:だから喋るなって!
エーデルワルス=ルートヴィヒ・ラインハルト:……すまない。
カリヤ:……兎に角!これからお前のこと『ワルス』って呼ぶからな、役名も変えといたぞ!
ワルス:……え?


 ワルス、自身の役名が本当に変わっている事に気づく。


ワルス:な……なんと横暴な!そんな名前……なんだか悪そうじゃないか!!
カリヤ:実際悪役だろうが!
ワルス:そうだったのかい!?
カリヤ:え、何お前。あんな台詞吐いといて今の今まで役回り分かってなかったの?そんなことある!?どう考えてもラスボスかその一個前の台詞だったよね?ねえ?
ワルス:え、いや……最初の台詞ボクからだし?てっきり主人公なのかなーって。
カリヤ:じゃあ俺はなんなんだよ。
ワルス:君こそ悪役だろうと思っていたよ。
カリヤ:はぁ?
ワルス:し、仕方ないだろう!ボクの立場からみれば君は敵だし!それに……作者がキャラクター説明を書いてくれなかったんだから!!
カリヤ:あ、そう言えば……無かったな。
ワルス:だろう!?
カリヤ:……?ちょっと待て。
ワルス:なんだい、まだボクに文句があるのかい?
カリヤ:……いや、俺も分からなくなってきた。俺は役表の一番上に名前があったから勝手に良い奴だと思い込んでいただけで、自分の役割を分かってなかったのは俺の方なのかもしれない。
ワルス:ほう?
カリヤ:そうだよな……俺とお前はどうも敵同士らしいがどっちが悪役なのかは明言されてないんだよな。
ワルス:ライバル、とは書いてあったけどね。
カリヤ:うーん……
ワルス:ま、まあ別に君が主人公ということでいいんじゃないかい?言われてみればボクが君を待ち構えていたみたいだし。ほら、そういうのって大抵悪役の仕事だろう?
カリヤ:それはそうだが……仮に主人公だったとしても良い奴とは限らないだろ?最近そういう話増えてきてるし。
ワルス:ふむ……ダークヒーローとかアンチヒーローとかいう奴か。
カリヤ:そうそう。行動理念は素晴らしいし一見良いことをしてるように見えるけど周りを徹底的に不幸せにしているとか。
ワルス:逆にやり口も考え方も悪逆非道だけど結果的に世界を救う、なんてものもあるね。
カリヤ:…………。
ワルス:…………。
カリヤ:……俺は本当に良い奴なのか?
ワルス:ボクに聞かないでくれないかな。第一君が言い出した話だろう。
カリヤ:いや、そうなんだけどさ……なんか、こう、自分じゃ分からないっていうか自信無くなってきたっていうか、この……なあ?
ワルス:なあ?じゃないよ。
カリヤ:むぅ……


 一人考え始めるカリヤ。


ワルス:……(ため息)それじゃあ最初から整理しようか。ボクと君の……因縁を。
カリヤ:あ、ああ……思い出してみる。
ワルス:君は、ボクの後輩として魔導学園に入学してきたんだったね。
カリヤ:辺境の農村の生まれだった俺は、旅をしていた学園長に資質を見いだされて編入することになったんだ。その時に『カリヤ』って名前も貰った。意味は古ニムロ語(こにむろご)で『使者』だって。
ワルス:……何処かで聞いたような設定だ。
カリヤ:俺もそう思う。作者の頭に引き出しが足りなかったんだろう。
ワルス:それは思っても言わない方がいいんじゃないかな。
カリヤ:初めて親元を離れて、王都に出てきて……不安だったな。建物も田舎じゃ見たこと無かったくらい大きいし、学生寮ですら四階建てだろ?入るときは本当に尻込みしたよ。
ワルス:その割に学園での態度は大きかったじゃないか。
カリヤ:え。
ワルス:一年生の癖にちょっとばかり飲み込みが早いからって調子に乗ってさあ。そりゃあ確かに剣の心得がある上に全属性の魔法に適性があるのは素晴らしい事だと思うよ?少しばかり都合がよすぎると思うけど。
カリヤ:そこはまあ……突っ込まないでくれ。
ワルス:お約束と言えばお約束だからねえ……ま、だからこそ喧嘩を吹っ掛けて来た相手の苦手な属性を突いて悉(ことごと)く撃退出来た訳だ。
カリヤ:あれは仕掛けてきた方が悪いんだよ。中途編入なのが気に入らなかったんだろうが、俺だって痛いのは嫌だったから必死だったし……まあ段々返り討ちにするのが楽しくなってたのは認めるけど。
ワルス:ふうん……
カリヤ:な、なんだよ。
ワルス:いや、楽しんでたと言えばあの決め台詞、かなーり痛かったなってね。
ワルス:(カリヤの声まねで)『俺に喧嘩を売るには、あと六属性足りないぜ』
カリヤ:え……そんなこと言ったっけ。
ワルス:言っていたよ?
カリヤ:聞き間違いとかじゃ――
ワルス:ないね。
カリヤ:うぐっ……忘れてくれ。
ワルス:どの属性の魔法も、初級魔法しか発動できないってのにさぁ。正直そんなんでボクに突っかかってきた時は笑うかと思ったよ。いや、笑ったね確か。
カリヤ:っ……それは!お前がセーニュの生まれを馬鹿にしたからだろう!!
ワルス:そうだったかな。
カリヤ:サイリスに帰れだとか、酷いことを言ったのを聞いたぞ。
ワルス:ああ、その事か。そもサイリス人には魔法は向かない、それを教えてあげただけさ。
カリヤ:なに……?
ワルス:サイリスには『Lra(巻き舌の「ら」)』とか『Thi(無声音の「スィ」)』の発音が無いからね。後天的に習得するくらいなら魔法以外の事に時間を割いた方が有意義だ。彼女は布職人の家系だったろう?そちらの修行をした方が身のためだったと思うけどな。
カリヤ:だとしても、お前が彼女を傷つけた事に変わりはない!それに、セーニュはな……親から逃げるために学園に入ったんだよ。
ワルス:……どういうことだい?
カリヤ:あいつは、母さんが再婚した男に小間使い(こまづかい)みたいに扱われてて……それに気付いた学園長が交渉して匿(かくま)ったんだよ。幸い魔法の素質があって、入学要項も満たしてたから。
ワルス:そんなことが……その男、父親の風上にも置けないね。
カリヤ:あいつにとって、学園は居場所だったんだ。それを否定しようとしたお前は許せなかった。
ワルス:……それに関しては謝罪しよう。事情を知らなかった、と言っても言い訳になってしまうが。
カリヤ:っ……案外素直なんだな。
ワルス:ボクを何だと思っていたんだい?
カリヤ:もっと話の通じない奴だと。
ワルス:失敬な!これでもボクは、名士ラインハルトの跡継ぎだぞ。
カリヤ:そういう所が嫌いなんだよ。権力を笠に着て……
ワルス:……(急に真面目に)なに?
カリヤ:本当の事だろ。ことあるごとに家名を見せびらかしてくるじゃないか。
ワルス:ボクがいつ、父の名を『使った』というんだい?
カリヤ:な……。
ワルス:勘違いしてもらっては困るよ。ボクはただ、父の名に恥じないよう振る舞っているだけさ。七光りのように思われるのは心外だね。それとも、君に分かるのかい?ボクの歩んできた道の辛さが!
カリヤ:なに……?
ワルス:誰もから期待され、失敗を許されない人生を、歩んだことがあるのかと聞いているんだ。
カリヤ:それは……
ワルス:まあ、幸いボクは天才だったからね。求められるものに応えることは出来たよ。そうでなければ、今頃は……いや、こんなの他人(ひと)に話すような事でもないね。
カリヤ:……悪い。
ワルス:いいさ、ボクは紳士だからね。この程度の事で激昂したりはしないよ。
カリヤ:紳士ぃ?
ワルス:なにか文句でも?
カリヤ:文句だらけだよ!闘技会のこと、忘れたとは言わせないぞ。
ワルス:闘技会……君とは確か魔法部門の決勝で当たって引き分けたんだったね。君の使った雷と水と光の複合魔法に、会場が湧いたことはよく覚えているよ。三属性を実用できるレベルで習得できる魔法使いなんてそうそう居ないからね。
カリヤ:あの試合は本当なら俺の勝ちだったはずなんだ。お前の不正が無ければな。
ワルス:不正、だって?
カリヤ:お前が最後に撃ったカウンター魔法だよ。
ワルス:……。
カリヤ:最初は爆裂の魔法を応用したのかと思った。座標を固定して、俺の攻撃に合わせて『置いた』んだって。だがそれにしちゃ発動が速すぎる。お前の適性……火と闇の属性は、詠唱が長い。働きかけなきゃいけない要素が多すぎるんだ。
ワルス:省略式さ。ボクは初心者が使うような教本に従うだけの術は嫌いだからね。
カリヤ:どんな省略式を使っても……あの現象を起こすには四音はかかる。『El du spadis(エル・デュ・スパーディス)』だろ?
ワルス:……驚いたな。君もそこまで辿り着いたのか。
カリヤ:これが限界だ。これ以上どの要素を削ってもあの規模の爆発は起こせない。
ワルス:……『El dspars(エル・ダスパース)』なら三音だ。もう少し考えるべきだったね。
カリヤ:あ……。
ワルス:だが、これでも遅いな。認めよう、あの魔法はスクロールだよ。護身用に持ち歩いていたものだ。
カリヤ:やっぱり……闘技会じゃスクロールもポーションも使用禁止だって分かっていただろう。
ワルス:ああ。
カリヤ:だったら何で!
ワルス:負けたくなかった。そこに理由が要るかい?
カリヤ:なに……?
ワルス:言ったろう、ボクに失敗は許されない。それに君のことも気に入らない。だから君にだけは負けられなかったんだ。君が帯電した飛沫(しぶき)に紛れて距離を詰めて来た時……あのスクロールをポケットに入れていたことを思い出した。思い出してしまった、と言うべきかな。まさか、審判にもバレないとは思わなかったけどね。
カリヤ:それだけイカサマが上手かったんだろ。
ワルス:違うね。君こそ気付いていなかったのかい?
カリヤ:……?
ワルス:あの時、会場の皆が君を見ていた。君だけを見ていたんだ。王者のとどめの一撃を見逃さないようにね。その時点で、勝敗は決していたんだよ。
カリヤ:……。
ワルス:……君には悪いことをしたね。だいぶ酷い火傷だったんだろう?
カリヤ:まあ……な。って、むしろお前の方が酷かったろう。あれだけ至近距離で爆発を受けたんだから。
ワルス:そう……なのか?
カリヤ:なんで疑問なんだよ。
ワルス:目が覚めた時には傷は癒えかけていたからね。君も学園を出た後だった。
カリヤ:丁度あの後、学園長の頼みで旅に出たんだ。表向きは休学したことになったらしい。
ワルス:学園長の頼み?
カリヤ:ああ。
ワルス:そうか……


 ワルス、顎に手を当てて少し考え込むが、すぐに元の調子に戻る。


ワルス:学園じゃ、素行不良で退学になったんだろうと噂されていたよ。
カリヤ:え。
ワルス:まあ君、色々とイレギュラーな事をやってきたからねぇ。身から出た錆だね。件(くだん)のセーニュ君も、何をやらかしたんだろうと気を揉んでいたよ。
カリヤ:ぐぬぬ……他人(ひと)が世界を救うために頑張ってるってのに。
ワルス:(真剣な調子で)世界を救う、だって?
カリヤ:ああ。俺の目的は聖廟(せいびょう)を探し出して解放し、秘術を受け継ぐことだ。来るべき魔王ガーロンの復活に備えてな。
ワルス:魔王ガーロン……それも学園長から?
カリヤ:そうだ。……さっきから何を考えてるんだ?そんな険しい顔をして。
ワルス:……いや。
カリヤ:……?
ワルス:……ボクはね、王都からの指示で学園を代表して門(ゲート)を封印しに来たんだ。学園長の指名でね。
カリヤ:門(ゲート)?なんだそれ?
ワルス:君の言う魔王の住む魔界との境界さ。それが何者かの手によって解放されようとしている、とね。
カリヤ:本当か?だとしたら俺も急がないと……一体誰がそんなことを――
ワルス:君だよ、カリヤ君。


 カリヤは思考が追い付かず一瞬フリーズする。


カリヤ:……え。
ワルス:君が、魔王をこの世界に呼び込もうとしているんだ。
カリヤ:……なんだって?
ワルス:各地で封印の要石(かなめいし)を解放して回っていたのは君だろう。アルリューン王朝の紋章が彫られた魔石さ。覚えがあるはずだ。
カリヤ:王朝の紋章……確かに、持ってるけど……
ワルス:だったら、大人しくそれをこちらに渡すんだ。そうすれば痛い目は見せないよ。
カリヤ:ま、待ってくれよ!これは聖廟の鍵で、魔王に対抗するために必要なものなんだぞ!?
ワルス:……なに?
カリヤ:あの扉の奥にいる賢者アルワーズ様に秘術を教わらないと、魔王には対抗できないって!


 カリヤはワルスの背後にある荘厳な扉を指差す。


ワルス:まさか……
カリヤ:……ワルス?
ワルス:まさか『あれ』が、君の言う聖廟の入り口だと言うのかい?
カリヤ:間違いない、学園長から貰った写し絵の通りだからな。
ワルス:馬鹿を言うな!『あれ』こそが……ボクの言った魔界との門(ゲート)なんだぞ?
カリヤ:な……『あれ』が、門(ゲート)?
ワルス:……やはり、君はもう少し勉強した方が良い。
カリヤ:なんだと?
ワルス:アルワーズ殿は数百年前、魔王を討ち果たすべく旅に出た四人の勇者のひとりだ。彼は他の三人の仲間を失いつつも魔王を魔界に封印し、その鍵を各地に隠した。
カリヤ:それが、この魔石……
ワルス:そうだ。その後彼は時の王に認められ、新たな国を建国することになる。アルリューン王朝だ。彼はその時に自身の名を『アルリューン一世』と改めた。そして、六十三の歳で没するまで国を治め続けたんだ。
ワルス:さて、ここまで言えば分かるかな?
カリヤ:アルワーズ様が生きているわけがない、と。
ワルス:仮に魔術や何かを使って存命だったとしても、あの門(ゲート)が彼の手によって封印され、その鍵がこちら側にある以上、彼もまたこちら側にいなければおかしいだろう。
カリヤ:確かに……だけどなんでそんなに詳しいんだよ。旅の途中でもそんな話聞いたことなかったぞ?
ワルス:だろうな。家の者以外に話すのは初めてさ。
カリヤ:ってことはお前……
ワルス:ああ、アルワーズ・ラインハルトはボクの先祖だよ。まあ、ボクの家は分家だけどね。しかし……こんなところで名前を聞くことになるとは思わなかったな。
カリヤ:どういうことだ?
ワルス:彼は名前を変えた時に、過去の文献の名前も書き換えさせたんだ。だから、ボクたち子孫以外には『アルワーズ』の名は伝えられていない……はずだった。
カリヤ:え…………?
ワルス:…………。


 カリヤとワルスは暫し口をつぐむ。混乱しつつも自らの置かれている状況を理解しようと。


ワルス:……なあ、カリヤ君。そろそろどちらが悪役なのか分かったかい?
カリヤ:いや、分からない。分からなくて当然だったんだ。
ワルス:……そうだね。ここで君の事情を聞けて良かったよ。
カリヤ:なんか……最初から話し合えば良かったんじゃないかって思った。
ワルス:同感だ。
カリヤ:というか、お前は毎度毎度口上が大仰(おおぎょう)すぎるんだよ!リーアの村の時も、私怨で襲って来てるのかと思ってたわ!
ワルス:まあ、実際私怨のようなものだったからね。口上は……まあ、なんだ。気分が乗ってしまってね。
カリヤ:気分だぁ?
ワルス:その……魔王復活を目論む悪人を倒す勇者、的な。
カリヤ:……お前も大概痛い奴じゃないか。
ワルス:う、五月蝿いな。
カリヤ:なんか、アレだな。
ワルス:なんだ。
カリヤ:同族嫌悪だったのかもな、俺たち。ほら、お互いに勇者様を気取ってた訳だし。
ワルス:……君と同レベルだなんて認めたくはないけど、そうなんだろうね。


 カリヤとワルスは顔を見合わせて口元を緩める。


カリヤ:でも結局、余計に分からなくなったな。俺が本当に良い奴だったのかどうか。
ワルス:誰にだって、問題点くらいあるさ。認めて、省(かえり)みて、前に進めば良い。
カリヤ:ワルス……。
ワルス:そもそも一対一の台本なら、二人共に主人公で、良い奴で、悪い奴で、敵同士というのも珍しくないんじゃあないか?
カリヤ:……お前、良いこと言うな。
ワルス:ふふん、そうだろう?少しは先輩として敬うといいさ。
カリヤ:じゃあ……ラインハルト先輩?
エーデルワルス=ルートヴィヒ・ラインハルト:君にそう呼ばれるのは少しこそばゆいな。
カリヤ:お前が敬えって言ったんだろ。また『ワルス』に戻すぞ?
エーデルワルス=ルートヴィヒ・ラインハルト:それは勘弁してくれないかな……というか元に戻してくれたんだね、名前。
カリヤ:感謝しろよ?
エーデルワルス=ルートヴィヒ・ラインハルト:するわけないだろう、もともと君が勝手に変えたんじゃないか。
カリヤ:……ちぇっ、バレたか。
エーデルワルス=ルートヴィヒ・ラインハルト:君ね……しかし、ここで立ち止まることが出来て良かったよ。
カリヤ:ああ。俺は、何かとんでもないことをしでかす所だったのかもしれない。
エーデルワルス=ルートヴィヒ・ラインハルト:カリヤ君。君は、学園長の頼みで動いていたんだったね。
カリヤ:……そうだ。
エーデルワルス=ルートヴィヒ・ラインハルト:そして、ボクも学園長の指示で動いている。それなのに――
カリヤ:俺たちは敵対していた……。
エーデルワルス=ルートヴィヒ・ラインハルト:何か……ボクたちの預かり知らない所で何かが、動いているんだろうね。
カリヤ:……なんで、学園長はそんなことを。
エーデルワルス=ルートヴィヒ・ラインハルト:そうだな……ボクも君も、闘技会で決勝まで勝ち上った実力者だ。はっきり言って、単純な戦闘であれば学園長よりも強い。
カリヤ:……それがどうしたんだよ?
エーデルワルス=ルートヴィヒ・ラインハルト:即ち、ボクたちはこの世界で最強クラスの魔法使いということだ。ともすると魔王にだって対抗できるかもしれない。
カリヤ:それは、可能性の話だよな。
エーデルワルス=ルートヴィヒ・ラインハルト:当たり前じゃないか。魔王の実力なんて、実際に戦った大昔の勇者たちくらいしか知らないんだ。
エーデルワルス=ルートヴィヒ・ラインハルト:いや……魔王やアルワーズ殿の名前を知っていた学園長なら、それも知っているのかもしれないけれど。
カリヤ:……。
エーデルワルス=ルートヴィヒ・ラインハルト:兎も角、学園長は君に魔王を復活させようとし、ボクに君を止めさせようとした。
カリヤ:ああ。
エーデルワルス=ルートヴィヒ・ラインハルト:だが、闘技会の結果の通り、ボクは不正をしても君と相討ち止まりだ。つまり、ボクは君よりも弱い。
カリヤ:自分で言うのかよ。
エーデルワルス=ルートヴィヒ・ラインハルト:事実を認めないのは、愚かな行為だからね。では……何故ボクに単独で君を追わせたのか。
カリヤ:え?
エーデルワルス=ルートヴィヒ・ラインハルト:ボクでは、君に勝てないというのに。
カリヤ:まさか、最初から俺にお前を倒させるつもりで……?
エーデルワルス=ルートヴィヒ・ラインハルト:(頷く)多分ね。後は、こうして話し合いをされることが無いように、かな。ボクたちは……あの時のボクたちは互いにいがみ合っていたから。
カリヤ:今になるまで相手の話なんて聞こうともしなかったもんな、お互いに。
エーデルワルス=ルートヴィヒ・ラインハルト:さて、ここからが彼のシナリオだ。ボクと君はここで戦い、君が勝利する。そして手負いの君は聖廟の扉――つまり門(ゲート)を開き、魔王の封印を解いてしまう。君は目の前の光景に驚き、慌て、押さえ込もうとするが……直前の戦闘で消耗していたせいでなす術無く魔王に屠(ほふ)られる……もしボクが君との戦闘を生き延びていたとしても、この時点で終わりだ。そして、世界は闇に包まれたのでした、めでたしめでたしだ。誰にとってめでたい事なのかは知らないけど。
カリヤ:そんな……いや、でも……。
エーデルワルス=ルートヴィヒ・ラインハルト:これはあくまでも推測だ。全くの見当違いかもしれない。けれど、学園長が何かボクたちにとって良からぬ事を企んでいるのは間違いないだろうね。


 俯いて考え込むカリヤ。その表情には複雑な感情が入り交じっていた。


エーデルワルス=ルートヴィヒ・ラインハルト:行くかい?
カリヤ:どこへ。
エーデルワルス=ルートヴィヒ・ラインハルト:シナリオを、壊しに。
カリヤ:……ああ。誰かに都合の良い役を演じさせられるのは御免だ。
エーデルワルス=ルートヴィヒ・ラインハルト:その目、やっぱり気に入らないな……嫌いではなくなったけどね。
カリヤ:勘違いしないでくれ。俺はお前の話を完全に信用した訳じゃないからな。ただ真実を知りたい、それだけだ。
エーデルワルス=ルートヴィヒ・ラインハルト:分かっているさ。なんなら後ろから攻撃して貰っても構わないよ。
カリヤ:拘束魔法くらいで済ませておいてやるよ。
エーデルワルス=ルートヴィヒ・ラインハルト:ありがたいね。ところで、また先輩とは呼んでくれないのかい?
カリヤ:……もう、学園の生徒でもないからな。
エーデルワルス=ルートヴィヒ・ラインハルト:ふむ……残念だ。では今のボクたちはどういう関係になるのかな?
カリヤ:……冒頭に書いてあったろ。『ライバル』って。
エーデルワルス=ルートヴィヒ・ラインハルト:ああ……確かに。最後に手を取り合うにはぴったりの間柄(あいだがら)だ。


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 すっ、と。エーデルワルス=ルートヴィヒ・ラインハルトがこちらを見る。液晶画面を通して。


エーデルワルス=ルートヴィヒ・ラインハルト:……感謝するよ、誰かさん。『この』シナリオが無ければ、ボクたちは自分が何を演じさせられているのかにさえ気付けなかった。
カリヤ:俺からも礼を言わせて貰う。ありがとう。
カリヤ:だが、お前たちの助けは、もう借りない。我が儘かもしれないが……許してくれ。これは俺たちの問題なんだ。ここから先のシナリオは、俺たちが描く。
エーデルワルス=ルートヴィヒ・ラインハルト:さよならだね。願わくば、ボクたちの物語がこれ以上綴(つづ)られないことを。


 カリヤとエーデルワルス=ルートヴィヒ・ラインハルトは門(ゲート)を後にした。きっと彼らは真実を求め、学園を目指すのだろう。
 これ以上、我々にできる事はない。
 彼らの意に添い、ここで筆を置くこととさせていただこう。


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