あずーるの物置

作品置き場(予定)

ボイスドラマ用シナリオ『Duæl』

Duæl

闇に紛れ出没するステルス機が確認された。彼ら自身も被害を受けた38小隊はその脅威に挑む……。【男2:女2:不問2(兼役アリ)】

 

□登場人物
エドガー准尉:38小隊の隊長。叩き上げの下士官
ルーベンス軍曹:38小隊の隊員。粗野だが面倒見が良い。
キャミィ伍長:38小隊の紅一点。メカニック出身。
・ハリー曹長:403補給部隊のトラック運転手。
・エリゼ中尉:26小隊の隊長。エドガーとは腐れ縁。
・サンク:《リュタン》のパイロット。子供っぽい。
・シス:《リュタン》のパイロット。冷静沈着。

ルーベンスとハリーは兼ね役推奨。
※サンク、シスは十代前半を想定しています。

 

□用語解説

アルマーニュ…架空の国家。フランツと戦闘状態にある。
・フランツ…架空の国家。アルマーニュと戦闘状態にある。
・《シュラーク》:アルマーニュ軍の主力機動兵器。
・《シュラーク・リュストゥング》:強化装甲を装備した《シュラーク》。
・《リュタン》:フランツ軍の準主力機動兵器。

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◇戦場
 濃い霧の立ち込める夜の森、三機の《シュラーク》が周囲を警戒している。


エドガー:粗方片付いたか……。
キャミィ:フランツ軍の撤退開始を確認、アタシ達の勝ちだね!
ルーベンス:へっ!一昨日来やがれってんだ!
エドガー:敵機の反応なし……38小隊、これより帰投する。
キャミィ:ん?
ルーベンス:なんだ、キャミィ
キャミィ:今何かが動いた。
エドガー:何だと?レーダーには何も映っていないぞ?
ルーベンス:見間違いじゃねえのか?

 と、木々の間から数本のナイフが飛んでくる。次の瞬間にはルーベンスの《シュラーク》の左肩と左腕に突き刺さったナイフが爆音を響かせていた。

ルーベンス:うおっ!?
エドガー:ルーベンス
ルーベンス:チクショウ、何かが爆発しやがった!左腕損傷!
キャミィ:っ……隊長!
エドガー:ああ……38小隊より各小隊へ、ステルス機だ!目視並びにレーダーでの視認は困難と判断、本区域からの速やかな離脱を進言する!
ルーベンス:クソが!あの辺りか?
エドガー:ルーベンス、銃を降ろせ!撤退するぞ!
ルーベンス:ヤられっぱなしじゃ終われねぇだろ!?
キャミィ:こんな霧の中でステルス機がそう簡単に見つかる訳ないでしょ!ここに残ってたんじゃ一方的に攻撃されるだけだよ!
ルーベンス:ちっ……分かったよ!

 やや間あって。

サンク:外した?くそっ、これじゃまたお仕置きだ……。

 《リュタン》の通信機が鳴る。

サンク:……了解、帰投する。

 

アルマーニュ軍前線基地第四格納庫


エドガー:こりゃ修理は無理そうだな、完全にイかれてる。キャミィ、そっちはどうだ?
キャミィ:うーん……ダメだね、肩の関節基部まで破壊されてるから腕だけすげ替えって訳にもいかなそう。
エドガー:HEAT(ヒート)ナイフってとこか、また厄介なものを作りやがって。
ルーベンス:あん?ありゃ溶断兵器じゃなかっただろ。
キャミィ:その熱(ヒート)じゃなくて、成形炸薬の事。接触と同時に炸薬が爆発して装甲を貫き、充填されてる金属粒子が内部を破壊する!ロマンはあるけど受けたくはない武装ね。
ルーベンス:……へぇ。
キャミィ:折角説明してあげたのに何よその素っ気ない反応。
ルーベンス:いや、難しいこたぁ分かんねえんだが……要は刃が爆弾で出来てるって事だよな?
キャミィ:まあ……だいたいそれで合ってるよ。
エドガー:今回は肩の装甲だったが、コクピットハッチに当たってでもいたら……。
ルーベンス:こんがり焼けたハンバーグってか。
キャミィ:ちょっと、怖いこと想像させないでよ。
ルーベンス:おっと、悪い悪い。だが、新兵器ねぇ……まったく次から次へと。
キャミィ:そういえば、ウチも《シュラーク》用の装備を開発してるらしいよ?
エドガー:この前の新型機騒動でやっと尻に火が付いたってとこかね。
キャミィ:機体そのものを鹵獲できたってのも大きかったんじゃないかな。
ルーベンス:26(にーろく)小隊サマサマだなぁ。
キャミィ:アタシたちが三人がかりで倒せなかった相手を二人だけで倒しちゃうんだから凄いよね。隊長さんも美人だし。
ルーベンス:それは関係なくねえか?
キャミィ:関係なくないよ。エリゼさんは私たち女性パイロットの憧れなんだから!
エドガー:まあ……アイツはあれで見た目も腕も経歴も悪くないからな。
ルーベンス:ふーん……俺は苦手だねえ、ああいうお堅い女は。
エリゼ:私がどうかしたか?

 ルーベンスの背後からエリゼが声をかける。

ルーベンス:いっ!あ、いえ少尉殿の華々しい戦績の話を……へへ。
エリゼ:今は中尉だ。
キャミィ:昇進されたんですね!
エリゼ:まあな。だからと言って、何か変わった訳ではないが。
エドガー:んで、その中尉殿の隊は今日もお休みだったのか?
エリゼ:出撃したいのは山々だが、なにぶん機体も人員も補充が無くてな。支給されたのはこの階級章だけさ。
エドガー:貰えるだけマシだろう。
エリゼ:どういう意味だ?
エドガー:上に嫌われてる自覚はあるだろうに。
エリゼ:私は上官なんだぞ。
エドガー:だったらすぐに追い越してやるよ、エリゼちゃん。
エリゼ:言ってろ。
キャミィ:あの……ところで何かご用があったんじゃ?
エリゼ:おっと、エドガーのお陰で忘れるところだったよ。ほら。

 エリゼは一冊の資料をエドガーに手渡す。

エドガー:マニュアルか……なになに、《リュストゥング》?
キャミィ:それって噂の……!
エリゼ:ああ、《シュラーク》の強化装甲ユニットだ。来週には試作品が三機分、こちらに届くらしい。
エドガー:……なんでその報せをアンタが持ってくるんだ?
エリゼ:本当なら私たちが受け取る手はずだったんだが、知っての通り前の出撃で二機も壊してしまってな。装備が来ても機体が無いんじゃ試験ができないだろう?それなら他に回して貰おうと司令に掛け合ってきた。そうしたら『別にどこの隊でもいいからお前が話をつけろ』だと。
エドガー:それは……なんとも適当だな。
エリゼ:データさえ取れればいいんだとさ。それで、どうする?
エドガー:折角の中尉殿からのプレゼントだ、ありがたくいただくよ。
エリゼ:分かった、司令にもそう報告しておこう。
エドガー:ああ、頼んだ。

 

アルマーニュ軍前線基地周辺、森林地帯


エドガー:よし、今回の任務の確認だ。もうすぐこの区域をウチの輸送隊が通る。俺達38小隊はそれを出迎えて基地まで送り届ける、いいな?
キャミィ:了解。でもアタシたち二人だけで大丈夫なの?
エドガー:こちらの勢力圏とはいえ不安はあるが、上の命令だからな。
キャミィ:文句は言えない、か。
エドガー:そういうことだ。ルーベンスの機体の補修パーツも入ってるしな……と、作戦区域に到着。
キャミィ:輸送隊は……あれかな?
エドガー:装甲トラック四台に護衛の《シュラーク》が一機の筈だが……おかしいな。
キャミィ:二台しかいない?それになんだかすごくトばしてるみたいだけど……。
ハリー:……か!誰か応答してくれ!!
キャミィ:な……なに!?
ハリー:繋がった!?こちら第403補給部隊!未確認機に襲われて護衛がやられた、助けてくれ!!
エドガー:こちらは38小隊だ、敵の情報はあるか?
ハリー:本当に分からないんだ、急に護衛機が爆発して……。
エドガー:……分かった、もう少しだけ耐えてくれ!
キャミィ:今行くよ!
エドガー:キャミィ、敵機の反応は?
キャミィ:レーダーに感なし、この前のステルス機かも!
エドガー:厄介だな……。
キャミィ:近くに居るのは間違いないはず……牽制射、撃つよ!
エドガー:許可する!
キャミィ:やああっ!!

 キャミィの《シュラーク》が胸部の機関砲を乱射する。

キャミィ:命中判定あり!
エドガー:位置は!?
キャミィ:十一時方向!
サンク:っ……被弾した!?
エドガー:十一時……っと、あの辺か。グレネードだ、くらえっ!

 エドガーはマシンガン下部のグレネードランチャーを発射する。

サンク:くそっ!
エドガー:森に逃げ込んだか……キャミィはこのままトラックを護衛しろ!
キャミィ:隊長は?
エドガー:アイツを追う。
キャミィ:分かった、気を付けてね。
エドガー:ああ!さあて……処理は重くなるが、全センサーを起動っと。
キャミィ:どう、見つかりそう?
エドガー:感度を最大にしてるからな、余分な反応が多すぎる。だがこの地形ならそれらしいのは……あれか?
サンク:敵機接近……見つかった!?
エドガー:ビンゴ!
サンク:くっ!
エドガー:敵機を目視確認、《リュタン》タイプのカスタム機だ!改修はステルス機能の付与と軽量化……ってとこかな。
サンク:はあっ!

 《リュタン》の投げたHEATナイフをエドガーは機関砲で迎撃する。

エドガー:HEAT兵器……そいつに当たる訳にはいかない!
サンク:っ……!正面からじゃあ有効打は……。
エドガー:大人しく……しろおっ!

 エドガーの《シュラーク》は逆手に持ったナイフを《リュタン》へと突き立てる。

サンク:損傷軽微、まだだっ!
エドガー:また逃げるか!キャミィ、そっちに行ったかもしれない!気を付けろ!
キャミィ:それ、もう少し早く言って欲しかったな!
エドガー:なに?
キャミィ:現在敵機と交戦中!多分隊長の言ってた機体だよ!
エドガー:馬鹿な、いくらなんでも早すぎる!
キャミィ:でも現に黒い《リュタン》がここにいるの!
シス:優先目標、補給物資の奪取もしくは破壊。
キャミィ:やらせないよ!
シス:……っ!
キャミィ:アタシだって前線のパイロットなんだから!
シス:……護衛機の撃破が先決と判断。
キャミィ:やああっ!
シス:迎撃。
キャミィ:命中弾なし……!?そんな……。
シス:白兵戦を仕掛ける。
キャミィ:ぐうっ……近接戦闘用のサーベル?距離を取ろうにも物資が……!
シス:これで……。
キャミィ:きゃっ!!あ……両膝を的確に……!
シス:対象の脚部を破壊。主目標への攻撃を再開する。
キャミィ:ううっ……!
エドガー:それ以上やらせるかっ!

 森からエドガーの《シュラーク》が飛び出し、マシンガンと機関砲を乱射する。

キャミィ:隊長!
シス:もう一機……予想より合流が早い?被弾率上昇……戦況は不利と判断、撤退する。
エドガー:ちっ……キャミィ、無事か!?
キャミィ:アタシは大丈夫、でも機体はもう動かせない!
エドガー:スモークを焚く!こっちのコクピットに移ってくれ!
キャミィ:ごめん、隊長。
エドガー:謝る事じゃねえよ。
キャミィ:でも、これで絡繰り(からくり)が分かったよ……。
エドガー:なに?
キャミィ:さっき攻撃してきた《リュタン》……隊長が戦ってたのと違う機体だと思う。
エドガー:どういう事だ。
キャミィ:さっきまで隊長と戦ってたにしては損傷が少なすぎたんだ。
エドガー:!……一機だと思い込ませて油断を誘う作戦か。古い手だが、なるほど上手いやり方だ。
キャミィ:そうだ、トラックは?
エドガー:二台とも健在だ、よく耐えた。だが、今回は向こうの勝ちだな。
キャミィ:うん……。
エドガー:こうやって補給経路に網を張っているようなら、野放しにはしておけない……。
キャミィ:……。
エドガー:ま、落ち込んでも仕方ないさ。予定通り輸送隊を護衛しつつ、帰投するぞ。
キャミィ:了解。

 

アルマーニュ軍前線基地第四格納庫


エドガー:運び込みは?
キャミィ:終わったよ、これで全部だって。
エドガー:……こいつが《リュストゥング》か。
ルーベンス:随分と分厚いんだな。
キャミィ:リアクティブアーマーだからね、中身の爆薬分はどうしても分厚くなっちゃうの。
ルーベンス:使いきりの装甲たあ、随分豪華なモンだな。
エドガー:それにミサイルコンテナと長距離ライフル、ロングブレード……噂されてた試作兵器が勢ぞろいだ。
ルーベンス:だが、装備する機体が無ぇ。
エドガー:予備パーツが入ってたコンテナを破壊されちまったからな……。
ルーベンス:チクショウ!俺に何の恨みがあるってんだよ!
キャミィ:……。
エドガー:……キャミィルーベンスの《シュラーク》を補修パーツに使えないか?
キャミィ:アタシの機体と下半身を挿げ(すげ)替えるってこと?
ルーベンス:そうか、壊れてないパーツ同士を繋げりゃ……。
キャミィ:出来なくは無いけど、機体バランスはだいぶ悪くなるよ。次の補給を待ってからでも……。
エドガー:その補給のために、早いうちに手を打たないといかん。
キャミィ:……そうだね、分かった。やってみるよ。
ルーベンス:そんじゃこれで二機か……《リュストゥング》はもう一機分あるが。
エドガー:それに関しちゃアテがある、アイツなら協力してくれるはずさ。
ルーベンス:あ?

 

◇数日後、アルマーニュ軍前線基地


エドガー:やっと承認されたか……。
ルーベンス:意外と早かったとも思うがな。
エドガー:ああ、これより新装備試験の為の夜間哨戒任務を開始する!
ルーベンス:表向きは、だろ。上手くいくといいんだが……。
エドガー:向こうの縄張りにこっちから出向いてやろうっていうんだ、ましてやそれが新装備機なら……向こうも見逃すはずがない。
ルーベンス:そう願いたいね。
キャミィ:二人とも、出撃準備出来たって!
エドガー:分かった。ルーベンス、機体チェックは済んでるな?
ルーベンス:おう。
キャミィ:アタシが整備した機体に不備なんてある訳ないでしょ?
ルーベンス:……なあ、キャミィ
キャミィ:なに?
ルーベンス:この機体、本当に俺が使って良かったのか?コクピットブロックはお前のだろ?
キャミィ:悔しいけど操縦技術ならアンタの方が上だからね。頼んだよ、ルーベンス
ルーベンス:出来るだけ壊さないようにしてやるよ。
キャミィ:別に壊してもいいけど、ちゃんと生きて帰って来てよ。メカニックが機体を整備するのは、パイロットの為なんだから!
ルーベンス:へいへい、了解。
キャミィ:隊長もね。
エドガー:ああ……38小隊、出撃するぞ!ハッチ開けろ!!
キャミィ:ハッチ解放、進路クリアー!
エドガー:エドガー・ロウル、《シュラーク・リュストゥング》……出撃(で)る!
ルーベンスルーベンス・バックマイヤー、行ってくるぜ!
キャミィ:アタシは情報支援に回るよ。
エドガー:頼んだ。
キャミィ:目標エリア到達まで7分、気を付けて。

 

アルマーニュ軍前線基地周辺、森林地帯


ルーベンス:そろそろ例の区域だぜ、隊長!
キャミィ: 待っ………で…ぱ……がいさ……ジャミ……………
    :(待って……電波が阻害されてる!ジャミングだよ!!)
ルーベンス:おい、どうしたキャミィ……おい!!
エドガー:どうやらまだ待っていてくれたみたいだな。ルーベンス、短波通信は届いてるな!
ルーベンス:ノイズは混じってるが、いけるぜ。
エドガー:よし……数の上ではこっちが有利だ、落ち着いて行くぞ。
ルーベンス:了解!
シス:ジャミング範囲内に敵機侵入。
サンク:この前の機体……でもシルエットが違う?
シス:新装備……。
サンク:敵が強くなってるなら、皆の為にもここで仕留めないと!それに上手くやればセンセイも褒めてくれる!
シス:……作戦目標、敵機の撃破並びにデータの収集。

 林中の少し開けた場所でエドガーたちは動きを止める。

エドガー:……この辺りでいいか。ルーベンス、やってくれ。
ルーベンス:了解だ、ミサイルであぶり出してやる!

 ルーベンスの《シュラーク》は背負ったミサイルランチャーを展開し無数の小型ミサイルを放つ。

ルーベンス:そらそらぁ!
サンク:っ!位置がバレてるのか!?
シス:慌てないで、無誘導弾をばらまいているだけ。
サンク:そ、そうか……。
シス:攻撃が止んだタイミングでこっちから打って出る。
サンク:分かった、僕が行く。
シス:了解。
ルーベンス:へっ、尻尾巻いて飛び出して来るほどバカじゃあなかったか。
エドガー:威嚇にはなったろう。
サンク:背中を向けた……行くよ!
シス:……うん。
サンク:はあぁっ!
ルーベンス:うおっと!?
エドガー:お出でなすったか!
ルーベンス:ミサイルコンテナパージ……パージ機能も正常!
サンク:くそっ、オプションに阻まれた?
ルーベンス:お返しだっ!
サンク:当たるか!
ルーベンス:ちっ、森の方に逃げ込みやがった!
エドガー:警戒を厳に!
シス:……はっ!
ルーベンス:があっ!?
エドガー:ルーベンス
ルーベンス:大丈夫だ、大したダメージじゃねぇ!
エドガー:くそっ、予定通りとはいえ完全に誘い込まれたな……
ルーベンス:隊長!また動体反応、九時方向だ!
サンク:次は直撃コースだ、取ったぞ!
エドガー:ちぃっ!

 胸部の《リュストゥング》が砕け散り本体へのダメージを無効化する。

エドガー:ってて……衝撃ばかりは打ち消せないか!
サンク:手ごたえはあったのに……リアクティブアーマーか!?
エドガー:《リュストゥング》の防御性能は良好!良いデータをありがとうよ!!
サンク:だったらもう一発……叩き込むっ!!
エドガー:なんのっ!

 エドガーは《リュタン》のサーベルをロングブレードで受け止める。

サンク:反応が……早いっ!
エドガー:装甲が無くなった分軽くなったからな!それに……ふっ!
サンク:ぐうっ!
エドガー:今はこのブレードもある。
サンク:ちっ……!
エドガー:どうした、お得意の奇襲はもう終わりか?単純な接近戦なら、こっちだって素人じゃないんだぞ!
シス:サンク。
サンク:……ああ、分かったよシス。
ルーベンス:また隠れたか!
エドガー:どこだ……どこから来る?
サンク:右手に剣を!
シス:左手に剣を……!
サンク:デュエルっ!!
シス:サーブル……!!

 二機の《リュタン》が同時に飛び出し、ルーベンスの《シュラーク》に迫る。

ルーベンス:んがっ!?
エドガー:ルーベンス!!
ルーベンス:ぐっ……腕を持っていかれたが、まだ動くぜ!
サンク:こいつもしぶとい……っ!
シス:サンク、次はあっち。
サンク:分かってる!!
シス:はあっ!
エドガー:ぐっ……!
サンク:無駄な抵抗を……!
エドガー:今だ、ルーベンス
ルーベンス:応よ!

 ルーベンスの《シュラーク》は肩部のマルチランチャーから照明弾を天高く打ち上げた。
 辺りが煌々と照らされ、二機の《リュタン》と《シュラーク》の影を地面に落とす。

サンク:なんだ?
シス:照明弾……きゃっ!!
サンク:うわっ!?

 二機の《リュタン》がどこからか狙撃され、両機の背部ユニットが破壊される。

サンク:狙撃……さっきの照明弾はこの為?シス、大丈夫か!!
シス:ステルスユニット破損……やられた。
エドガー:……流石だな、中尉殿。
エリゼ:おだてるな、機械の補正があればこのくらいは誰にでも出来るさ。
キャミィ:……電波復旧、繋がったよ!!
エドガー:キャミィ、エリゼ機と情報連結を!
キャミィ:合点承知!
サンク:っ……二機だけじゃなかったのか!?
シス:状況は不利と判断。
サンク:でも、ここで引き下がる訳には!
エドガー:エリゼ、合流できるか?言われなくとも、今向かっている。あと15秒だ。
ルーベンス:ちっ!可愛くねえなぁ。
エリゼ:聞こえているぞ。
ルーベンス:こりゃ失礼。
エドガー:よし、ルーベンスは一旦下がれ!キャミィ、通信はルーベンス機を基地局に!
ルーベンス:流石に片腕じゃあな……了解!
キャミィ:分かったよ……って、また腕壊したの?
ルーベンス:うっせえ。
エドガー:さあてお返しだ!行くぞ、エリゼ!!
エリゼ:上官に向かって、いい度胸だな……だが良いだろう、お前に合わせる!
エドガー:んじゃま、ロックンロール!!
エリゼ:ふっ……。
エドガー:ほらほらこっちだぜ!
サンク:っ……コイツ!
シス:サンク、乗せられないで。
サンク:分かってる、分かってるけど!
エリゼ:当てる!
シス:迎撃。
エドガー:っと、こっちの機体は手強いな!エリゼ、抑えられるか?
エリゼ:やってみよう。
エドガー:その間に……もう一機の方をヤる!
シス:させない。
エリゼ:お前の相手は私だ!
シス:っ……この距離でライフルなんて。
エリゼ:何も撃つだけが銃ではないさ!
シス:銃床での打撃……?うあっ!
サンク:シス!オマエっ!シスに手を出すなあっ!

 ナイフを抜いたエドガーの《シュラーク》が、サンクの背後を取った。

エドガー:そっちから隙を見せてくれるなんてな!!
サンク:しまった……!?
エドガー:はああぁぁぁぁっ!!
シス:……ダメ!!

 シスの《リュタン》が割って入り、攻撃を庇う。

エリゼ:何!?
シス:ああああっっ!
サンク:シスっ!!
エドガー:な……コイツ、自分の機体を盾に!?
シス:サンク、ごめん。
エリゼ:離れろ、エドガー!!
エドガー:お、おう……。
シス:……て。

 エドガーが離れると同時にシスの《リュタン》が爆発炎上する。

サンク:あ……ああ……。
エリゼ:敵機の消失を確認……エドガー、無事か?
エドガー:なんとかな……もう一機はどうなった?
ルーベンス:仲間の爆発をモロに受けたみたいだ、機体は無事じゃ済まねぇだろうな。
サンク:……ス……シスっ!!答えてよ、ねえ!!
エリゼ:子供の声……。
エドガー:あの機体のパイロットか?
キャミィ:向こうも短波通信を使ってたみたいだね、それが混線してるのかも。
エリゼ:なんだっていい。《リュタン》のパイロット、聞こえているか!それ以上の戦闘は不可能だ、大人しく投降しろ!
サンク:……。
エリゼ:おい、聞こえていないのか!
サンク:お前、たちが……シスをっ!
エリゼ:!
ルーベンス:な……あんな機体状況で立てるのかよ!?
エドガー:っ……!
サンク:アンも、カトルもトロワも皆居なくなった!!シスは最後のきょうだいだったんだよ!それを……それをっ!
エリゼ:錯乱しているのか?不味いな……。
サンク:この戦争さえ終われば、またセンセイとみんなで暮らせるはずだったんだ!お前たちが来なければ!!
エドガー:……そうやって喚いて、悲劇のヒーロー気取りか?
サンク:ヒー、ロー……?ああ、そうだよ!ボクたちはこの戦争を終わらせて正義の味方になるんだ!そうすればもう誰も居なくならなくていい!!
エドガー:御大層な理想だな。
エリゼ:エドガー!刺激するな!
サンク:だからっ!ボクたちはっ!!負けられないんだあああっ!!

 フレームまでむき出しになった《リュタン》がエドガーの《シュラーク》に迫る。

エドガー:俺もアンタも、ただの兵士だ。正義の味方なんかにはなれない。
サンク:が……はっ…………!?

 《シュラーク》のロングブレードが、《リュタン》のコクピットを深々と貫いた。

エドガー:だからせめて兵士として逝け。向こうでゆっくり休みな。
サンク:そう、か……みん……な……居ない、んだ……。もう……戦わ、なくて…………。
エリゼ:……。
キャミィ:……。
ルーベンス:……チッ、胸糞悪い。
エリゼ:エドガー、お前……。
エドガー:助けられたはずだ、ってか?
エリゼ:……いや、分からんな。
エドガー:数字で呼ばれてるようなガキどもだ、まともな扱いは受けちゃいなかったろう。
エリゼ:ここで命を救ったとしても、上が彼を放っておくとも思えんな。
ルーベンス:だったらせめて……ってか。
エドガー:美談も悲劇も描くのは簡単だが……結局、やってる事はただの人殺しだ。そこにあいつ等と俺たちの違いなんてないさ。
エリゼ:だが、この戦争が終わるまでは。
エドガー:ああ……こちら38小隊、哨戒中に発見した敵ステルス機を撃破した。これより帰投する。
キャミィ:……了解、気を付けて帰ってきてね。
エドガー:おう。

 

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