あずーるの物置

作品置き場(予定)

舞台用シナリオ『それでも社会は廻っている』

それでも社会は廻っている

サラリーマン、ホームレス、女子高生にデリヘル嬢、定年退職した元教師……。年齢も出自もバラバラな五人の男女が出会い、自分を見つめ直す。【男3:女2(兼役アリ)】

 

□登場人物

・戸井 廻斗(とい かいと)…30代、男性。エナドリ漬け。
・瀬浪 七瀬(せな ななせ)…10代、女性。高三。いじめに遭っている。
・洞総 三郎(うろぶさ さぶろう)…40代、男性。ホームレス。
・小松 マコ(こまつ まこ)…20代、女性。風俗嬢。神川の教え子。
・神川 勘二(じんかわ かんじ)…60代、男性。元高校教師。

・綱木 夏 (つなぎ なつ)…30代後半、男性。戸井の上司で無責任。
・小田 貞夫(おだ さだお)…30代、男性。戸井の同期。


※本脚本は四編より成るオムニバスである。
 ACT.1~3は作品世界内で同時に進行され、ACT.4に収束する。

※三郎と綱木、神川と小田は兼ね役推奨。生徒A、生徒Bは適宜割り振ること。

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◇ACT.1 『黒』


 ある企業の一室。戸井が机に向かって仕事をしている。
 机の上にはパソコンと電話、大量の書類とエナドリの缶。

戸井:はい、こちら黒井商事営業部です。ハイ、ハイ……ハァ、その件でしたら担当者に……ハイ……ハイ、申し訳ございません、ハイ……失礼します。

 綱木、上着を羽織って登場。戸井の机に紙束を置く。

綱木:戸井、この仕事今日までな。
戸井:え。
綱木:頼んだぞー、じゃ定時だから帰るわ。
戸井:ちょ……ちょっと綱木先輩!
 
 綱木、戸井には目もくれず退場。
 戸井、暫くの放心の後大きく溜息をつく。

戸井:……こんなはずじゃ無かったんだけどな。

 小田、缶コーヒーを二本持ってやって来る。

小田:よ、やってるな。
戸井:なんだ、小田か。冷やかしなら帰ってくれよ。
小田:なんだとはなんだよ、釣れねえ奴だな。折角手伝ってやろうと思ったのによ。

 小田、缶を戸井に渡し、紙束の一部を手に取ると隣の席に座る。

戸井:そりゃありがたいけど……
小田:なんだこりゃ、会計書類か?ったく、これくらい自分でやれっての。
戸井:しっ、聞かれてたらどうするんだよ。
小田:別にいいんだよ。

 二人、パソコンを触りながら。

戸井:しかし、どういう風の吹き回しだよ。
小田:なんだかんだでお前には世話になったからよ、最後くらい恩返ししてやろうってな。
戸井:ん、最後?
小田:……俺、明日で会社辞めるから。
戸井:はあ!?
小田:これまで何とかやって来たけどな、もう限界だ。この前医者に診て貰ったら胃やら何やらぼろぼろなんだと。こりゃ流石に不味いと思ってな。
戸井:……。
小田:この歳ならまだ再就職もできるだろうし、お前も抜けるなら早い方が良いぞ?
戸井:そう……だな。
小田:ま、お前が大丈夫だってんなら何も言わないが。
戸井:……。
小田:……。

 二人、無言で仕事を続ける。

戸井:次の仕事は決まってるのか?
小田:まあな、玄田産業ってとこ。
戸井:もしそこが、ココと同じような会社だったらどうする。
小田:脅かすなよ……その時は、また次のアテを探すよ。
戸井:そうか……頑張れよ。
小田:おう、そっちもな。

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◇ACT.2 『青』

 暗転中。
 七瀬に浴びせられる罵詈雑言。

生徒A:なんだよこれ、良いの持ってんじゃん。
七瀬:やめてよ、返して!
生徒B:貧乏人には不釣り合いだよ。

 複数人の笑い声が響く。
 明転。
 夜の公園。ベンチに横たわる三郎。
 そこにセーラー服に鞄を提げた七瀬がやってくる。

七瀬:いたいた。サブローさん、今日はこっちだったんだ。
三郎:おう、嬢ちゃんか。

 体を起こす三郎。空いたスペースに七瀬が腰かける。

七瀬:また来ちゃった。
三郎:あんまり目立たないようにしてくれよ。下手したら俺が捕まるんだから。
七瀬:分かってるって。それで、今日はどうだったの?
三郎:どうもこうも、現場だよ。ったく、日雇いだからってこき使いやがって……ま、ちゃんと貰うもんは貰ったし、文句は言えねぇがな。
七瀬:そっか。あ、これ良かったら。

 七瀬、鞄からタッパーと割りばしを取り出し三郎に渡す。

三郎:ん、お前が作ったのか?
七瀬:うん。誰かに味見して欲しくて。
三郎:毎回言ってっけど、そういうのはこんなおっさんより彼氏とかに……。
七瀬:……。
三郎:……わかったわかった、ありがたくいただくよ。

 三郎、タッパーの中身を口に運ぶ。

七瀬:どう?
三郎:む、ふまい。
七瀬:食べながら喋らないでよ。
三郎:お前が聞いてきたんだろが。
七瀬:それはそうだけどさ。

 三郎、料理を完食する。

三郎:ふぅ、ごっそさん。
七瀬:お粗末さまでした。

 七瀬、三郎からタッパーを受け取り鞄にしまう。

三郎:で?
七瀬:……。
三郎:今日は何があったんだ?
七瀬:……。
三郎:おっさんに話してみろよ。その為に来たんだろ?
七瀬:……うん。
 
 暗転。
 七瀬、ここで学校でのことを三郎に打ち明けている。 
 明転。

三郎:はぁ、難儀なもんだなぁ……。嬢ちゃんがそいつ等に何をしたってんだよ、なぁ?
七瀬:……ぐすっ。
三郎:……よし、俺が新しいの買ってやろう。
七瀬:え?そんなつもりで話したんじゃ……。
三郎:なぁに、美味いもん食わせてくれた礼だよ、遠慮すんな。俺だってそのくらいの稼ぎはある。あ、まあ家賃は払えねぇが……はは。
七瀬:でも……。
三郎:おっさんには、嬢ちゃんの話を聞いてやるくらいしかできねぇからな。せめてこのくらいさせてくれよ。
七瀬:……ありがとう。
三郎:本当なら、そのバカどもにガツンと言ってやりてぇくらいだが、部外者が口出すわけにもいかねぇしな……。
七瀬:そう言ってくれるだけで嬉しいよ。

 七瀬、三郎に寄りかかる。

七瀬:ね、今日も一緒に寝ていいかな。
三郎:制服で来た時点で怪しいとは思っちゃいたが、やっぱりそういう腹積もりだったか。
七瀬:へへ、このまま登校できるように、準備はばっちりだよ。
三郎:何度も言ってるが、何かあったら捕まるのは俺の方だって分かってるんだろうな。
七瀬:わかってるわかってる。
三郎:はぁ……。ま、今晩くらいは話し相手になってやるよ。
七瀬:そう言って、これでもう五回目くらいだけどね。
三郎:うるせー。

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◇ACT.3 『紫』


 ラブホテルのロビー。フロントで神川が接客をしている。

神川:こちらルームキーです。では、お時間になりましたら備え付けの電話にコールさせていただきますので。
 
 神川、架空の客がエレベーターへ向かうのを見送る。
 マコ、綱木と手を組んで登場。

綱木:本当、アイツは馬鹿みたいに真面目くんだから、言った仕事は何でも片付けるんだ。だからこっそり俺の会計書類混ぜ込んだりしてな。
マコ:やだ、お客さん悪い人。
綱木:まあまあ、そのお陰で今日はマコちゃんと遊べるって訳なんだからさ。

 神川、マコに気付く。

綱木:部屋、空いてる?
神川:あ、はい。何時間のご利用でしょうか。
綱木:三時間で。
神川:かしこまりました、では309号室になります。お時間になりましたら……
綱木:ああ、分かってる分かってる。じゃ、行こうか。
マコ:う、うん。

 綱木、マコ、退場。

神川:今のは……マコくんか?

 暗転。明転。
 綱木、マコ、登場。

綱木:いやぁ、今日も楽しかったよ。ありがとう。
マコ:お客さんも上手だったよ。
綱木:嬉しいこと言ってくれるじゃないか。

 綱木、言いつつ神川にルームキーを渡す。

綱木:それじゃ、また。
マコ:うん、次もよろしくね。

 綱木、退場。
 マコ、それを見送って溜息をつく。

神川:小松マコくん、だよね。
マコ:……やっぱばれてたか。久しぶり、神川先生。
神川:五年ぶり、か?まさか……。
マコ:「こんな所で会うなんて」?
神川:……。
マコ:幻滅したでしょ、教え子がこんな仕事してて。
神川:あの頃の俺なら、そうだったかもな。
マコ:え?
神川:長いこと教師をやってきて、それ以外の世界も知った気になってたんだ。
マコ:……。
神川:定年してから手持無沙汰になって、派遣で仕事を始めてな。どんな仕事にせよ、理不尽で、大変で、そんな中に子どもたちを送り出してたんだと、今更知ったよ。
マコ:……先生でも、知らない事とかあったんですね。
神川:幻滅したか?元担任がこんなに無知で……。
マコ:昔の私なら、そうだったかも。
神川:なんだ、年寄りみたいな事を。
マコ:先生の真似。お互い大人になったって事でしょ。
神川:はは……そう、だな。

 やや間あって。

マコ:ねえ、この後空いてたりします?


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◇ACT.4 『白』


 再び夜の公園。七瀬、三郎の胸に顔を埋めている。
 そこに戸井が通りかかる。

戸井:あー……呼び出しかかるまでにあと何時間寝られるか……。

 戸井、三郎と七瀬に気付く。

戸井:ん、こんな真夜中に何やってんだ……?
七瀬:だからって、あんな、こと、しなくたって……グスッ。

 三郎、黙ったまま七瀬の背中をさする。

七瀬:お母さんに、も、言えないし、わた、私……

 戸井、なおも様子を窺う。
 そこにマコと神川が登場。

神川:そこで何をしているのかね。
戸井:!
マコ:覗きなんて、趣味悪いですよ。
戸井:な、ち、違いますよ!あの人たちが……。

 三郎、七瀬、声に気付く。

マコ:お、ロリコンさん?
七瀬:グスッ……?
三郎:人聞きの悪いことを……そんな風俗嬢みたいな恰好した奴に言われたくないね。
マコ:あれ、よく分かったね。今度指名してくれたら安くしてあげよっか。
神川:マコくん。
マコ:冗談だって……。

 七瀬、ムッとする。

神川:何か、訳アリのようだね。
七瀬:おじさんたち、誰?
神川:ああ、ただの通りすがりだよ。
マコ:訳アリの、ね。
神川:マコくん、誤解を招く言い方はやめないか。
マコ:へへ、先生の真似―。

 戸井、何処かに電話をかけようとする。

戸井:あ、もしもし警察ですか?公園に怪しいロリコンと愛人連れが……
神川:(同時に)違う!
マコ:(同時に)違うよ!
三郎:(同時に)違ぇよ!
七瀬:(同時に)違います!

 戸井、驚いて携帯を取り落とす。

三郎:誤解だって、まあ話を聞けよ、兄ちゃん。俺はこの嬢ちゃんの話し相手になってるだけなんだよ。

 七瀬、三郎の腕にしがみ付いて頷く。

神川:この女性は私の教え子だよ。別段怪しい関係ではない。
マコ:公園の茂みに隠れてコソコソしてる貴方の方が、通報されるようなことしてたと思うけど?
戸井:む……。

 戸井、携帯を拾い上げ通話を切る。
 一同、暫し沈黙。

三郎:ふぅ……危ねぇところだったぜ。
マコ:とはいえ、これでハイさよなら、ってできる空気じゃなくなっちゃったね。
神川:確かにな。
三郎:俺も、もう少し弁明させて貰いてぇな。
七瀬:ごめんね、サブローさん。私のせいで……。
神川:君は、随分この子に慕われているようだね。
三郎:ああ、まぁ……。
七瀬:サブローさんは私の話、ちゃんと聞いてくれるから。
マコ:でも、女の子がこんな時間に出歩くと危ないよ。警察の厄介になるかもだし、変な人にイタズラされるかもしれないんだよ。
三郎:それは俺も、重々言ってるんだがな……つか、風俗女がそれを言うのか。
マコ:感謝してよね、私たちがソウイウ犯罪者を減らしてるんだから。
三郎:言ってろ。
戸井:あの……あなたたちは一体何なんですか。通報するのは止めましたけど、怪しいことには変わりないんですからね。
神川:ああ、まだ詳しい話をしていなかったね。
マコ:あんまり他人(ひと)の事を詮索するのも良くないと思うけど?
戸井:そうは言っても……。
神川:まあまあ、このままじゃ彼も収まらないだろう。俺は神川、元は教師で今はしがないホテルマンだ。先程も言ったが、昔彼女の学級を受け持っていたことがある。
マコ:恩師サマってこと。私はマコ、所謂デリヘル嬢よ。あ、一応本名だよ。
神川:彼女とは今日偶然職場で会ってね、仕事終わりに少し話をしていたのさ。
マコ:そ、ただそれだけだよ。それで?
戸井:え?
マコ:私たちは名乗ったけど、貴方は何者なの?
戸井:僕は……戸井 廻斗、サラリーマンです。
マコ:それが、こんな時間に退勤?
戸井:残業ですよ。給料も出ないサビ残ですけどね。
三郎:ブラックって奴か。
戸井:傍から見ればそうなんでしょうね。
三郎:んな所とっとと辞めちまえ……たぁ、簡単には言えねぇのが辛いとこだよな。毎日毎日残業と上司の尻拭い、おまけに功績は全部その上司に持ってかれるときてる。
戸井:知ったような口を……。
三郎:知ってんだよ。
戸井:え……。
三郎:俺は洞総、元々はアンタと同じサラリーマンさ。今はこの通りホームレスだがな。仕事で身体壊して、首切られてこのザマさ。
マコ:へぇ、苦労してるんだ。
三郎:アンタに言われたかねぇな。
マコ:で?そんなホームレス様がどうやってこんな可愛い女の子を捕まえたのか、お姉さん気になるなぁ。
戸井:あなた、さっき自分で言ったこと忘れてません?
三郎:嬢ちゃんの事は……あんまり聞かないでやってくれねぇか。
七瀬:いいよ、サブローさん。この人たちなら、秘密、守ってくれそうだし。
三郎:お前がそう言うならいいが……。

 七瀬、頷く。

七瀬:私、瀬名七瀬って言います。
マコ:七瀬ちゃんね、可愛い名前じゃない。
神川:君は少し黙ってなさい。
マコ:ちぇー。
神川:すまないね、続けてくれて構わないよ。
七瀬:あ、はい。実は私、学校でちょっと……嫌がらせをされてて。母子家庭だからって。
戸井:いじめ、って事か?

 七瀬、暫し黙って、頷く。

七瀬:でも、お母さんは毎日夜勤で家に居ないし、心配かけられないから……。
三郎:そんなんであてもなく夜中の公園に繰り出して来てた所で、俺と会っちまったって訳だ。
七瀬:うん。それからたまにこうして話を聞いて貰ってるの。
三郎:本当に、聞いてるだけだけどな。
神川:それが、大事なんだよ。
戸井:愚痴を言い合える相手がいるのといないのとじゃ、大違いですからね。
マコ:そうそう、私もよくお客さんの愚痴聞かされるし、適度に発散できる場所は必要だよ。
三郎:しかし、教員連中は何をやってるんだってンだよ、まったく。
神川:いくら学級を受け持っている教員とはいえ、全てを把握できる訳でもないんだよ。俺はそうだった、情けない話だがね。
三郎:ん?
神川:もう二十年ほど前になるが、その頃俺の務めていた学校で一人の生徒が自殺した。俺の、教え子だった。だが、俺はその報せを聞くまでその生徒がそこまで思いつめているなんて、分からなかったんだ。学校では気立ても良くて、俺の仕事……言ってもプリントを運ぶくらいだが、そういう事もよく手伝ってくれていた。

 やや間あって。

神川:……後になって思えば、少しでもあの教室から離れたかったのかもしれない。でもな、分からなかった。俺は……分かってやれなかったんだ。
マコ:先生……。
七瀬:……いつか……いつか気付いてくれる、って思ってた。けど、そうだよね。先生だって、神様じゃないんだから、言わなきゃ分かんないよね。他人に期待してるだけじゃ何も変わらないって、分かってた、のに。なんでかな……なんで私、そこで怖がっちゃうかな……。
戸井:……嫌なんだよ、自分から世界を変えるのが。
七瀬:え……?
戸井:どんなに辛くても、苦しくても、自分はこれまでその中で生きてきたんだって、生きてこられたんだって!そう思ったら、そこから抜け出すのが怖くなる。もしここを抜け出せたとして、その次はどうなるんだろう、って。そうやって、どんどん気付かないうちに追い込まれて行って、いつの間にか周りには誰も居なくなって……。
マコ:甘えちゃってるんだよ、今の自分に。私もさ、最初は海外に出て音楽が演りたくて、そのお金を稼ぐために今の仕事始めたんだけどさ、なんだかんだで生きられちゃってるんだよね。それじゃもう音楽演る必要ないんじゃない?とか、成功したところで昔を掘り返されたらやだなーとか、いつの間にか、そんな風にしか考えられなくなってた。あんなに好きだった筈なのに、もうほとんど楽器にも触れてない。ホント、これからどうなっちゃうんだろう……
三郎:変わんねぇよ。
神川:え?(まばらに)
七瀬:え?(まばらに)
戸井:え?(まばらに)
マコ:え?(まばらに)
三郎:変わんねぇよ、何にも。考えてもみろよ、このだだっ広い世界でお前らが何かやったとして、変えられることがあんのか?アメリカを潰して、資本主義を終わらせられんのか?

 神川、七瀬、戸井、マコ、何か言いたげ。

三郎:ンなこと、誰にも出来やしねぇ。誰が何をやってもそう簡単には変わらねぇ、それが社会だ。俺は仕事も失くして、家も失くして、親からも勘当されて、一瞬で全然違う『世界』に放り出されたけどな、今日まで生きてきた。働いて生きてきた。『社会』の中で生きてきたんだ。

 神川、七瀬、戸井、マコ、聞き入る。

三郎:俺らのちっぽけな『世界』が無くなったとしても、『社会』が受け止めてくれる。それが『社会』だ。それでも社会は廻ってるんだ!

 やや間あって。

神川:……確かに、そうかもしれないな。俺が今も働いているのも、社会から離れたくないだけなのかもしれん。
戸井:そうだ……ウチの会社だけが全てじゃないんだ。
七瀬:私、話してみます。先生にも、お母さんにも。

 神川、戸井、七瀬、互いに話し込む。

マコ:はぁ、なんでロリコンホームレスに説教されて聞き入っちゃったんだろ。でも……なかなか良いこと言うじゃん。
三郎:先輩の受け売りだけどな。
マコ:先輩?
三郎:俺より前にここの公園をねぐらにしてたホームレス。ま、生活保護の不正受給でしょっ引かれたけどな。
マコ:……それは聞きたくなかったわ。

 徐々に空が明るくなってくる。

三郎:夜明けか。
七瀬:綺麗……。
戸井:外で見るのも久しぶりだな。
神川:……ん、夜明け?

 三郎、七瀬、戸井、神川、固まる。

七瀬:あーっ!学校!部活!!
戸井:ヤバい、会社から呼び出しかかってる!
神川:七時からシフトが……。
三郎:おいおい、もうバス出ちまうじゃねぇか!!

 四人、あたふた。

マコ:はぁ、皆大変そうだねぇ。私は一旦帰って寝……。

 マコ、ちらりと四人を見て、フッと笑う。

マコ:久しぶりに、弾いてみようかな。


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