あずーるの物置

作品置き場(予定)

ボイスドラマ用シナリオ『キグルミセンタイ オオインジャー』

キグルミセンタイ オオインジャー

ここは大井市ふるさと振興課、町おこしの為にひねり出したアイデアは……『ゆるキャラヒーロー』!?【男2、女1】

 

・課長……ふるさと振興課の課長。
・大原……ふるさと振興課の職員。
・職人……課長の友人で着ぐるみ職人。

 

※七色の森合作台本企画(2020)参加作品。
※本脚本は、かめちゃん 様との合作となります。

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◇大井市役所、ふるさと振興課。
 狭い部屋に職員は二人しかいない。

 

大原:……暇ですね。
課長:……そうだな。
大原:そういえば聞きました?商店街の蕎麦屋さん、店閉めちゃうらしいですよ。
課長:らしいな。あそこの山かけ蕎麦、好きだったんだけどなあ。
大原:観光客、減っていく一方ですもんね。市長からも「ちゃんと仕事しろ!」って怒られちゃいましたよ。
課長:やってるはずなんだけどなあ。ホームページだってポスターだって作ってるし、イベントも企画してきたし。
大原:『春の花火大会』はいけると思ったんですけど……結局三年で中止になっちゃいましたね。
課長:何がいけなかったんだろうなあ。
大原:最初の年は珍しいもの見たさに人も集まりましたけど、やっぱり一時的なイベントには限界がありますよ。
課長:なにか一年中見られる名物でもあればなあ。
大原:それを作ればいいんじゃないですか?
課長:作るって言ったって……
大原:ほら、最近だと「ゆるキャラで町おこし」とか聞くじゃないですか。
課長:ゆるキャラか……それならご当地ヒーローの方がいいんじゃないか。やっぱり格好いいキャラクターの方がウケがいいだろう。ここは大井市だから……『オオイマン』だな?
大原:なんかそれ、そのまんまですね。
課長:そうじゃないと大井市のPRにならないだろう。
大原:それはそうですけど……ってなんでヒーローでいく前提になってるんですか!時代はゆるキャラですよ、ゆるキャラ
課長:うーん、わかった。じゃあ『ゆるキャラヒーロー』ってのはどうだ。
大原:『ゆるキャラヒーロー』ですか?
課長:そうだ。普段はゆるキャラとして振る舞っているが、ひとたび事件が起きれば町のために勇敢に戦う!それが、『ゆるキャラヒーローオオイマン』だ!!
大原:なるほど。名前はともかくアイデアは悪くないと思います。
課長:だろう?
大原:あ、でもデザインとかはどうするんですか?私はできませんけど、課長が描くんですか?
課長:俺も絵はからっきしだからな……。
大原:万事休すじゃないですか!
課長:仕方ない、ここはアイツの力を借りるか。
大原:アイツって?
課長:まあ会えばわかるさ。行くぞ大原。
大原:え、行くってどこに……課長?課長!?

 

 課長、退場。
 大原、課長を追って退場。

 【場面転換】

 

◇きぐるみ職人の家。

 

職人:で、ワシの所に来たと。
課長:こういうのは専門家に聞いた方が早いからな。
大原:あの、課長……この方は?
課長:ああ、俺の同級生で着ぐるみ職人の安曇だ。色んな地域から依頼を受けてゆるキャラの着ぐるみも多数作ってきたんだぞ。
大原:え、それって凄い人じゃないですか!
職人:はは、褒めても何も出ないぞ。
課長:それでだ、安曇。『ゆるキャラヒーロー』の件なんだが。
職人:うむ、生まれ育ったこの町のためだ、ワシで良ければ手を貸そう。丁度一仕事終わったところで、時間もあるからな。
課長:ありがたい。じゃあまずデザインのコンセプトから決めていこうか。
大原:地域のキャラクターにするからにはこの町らしさが必要ですよね。
職人:名物や特産品か。
課長:そうだ、トウモロコシがいいんじゃないか?確か全国四位の生産量だったろ。
大原:いいですね!じゃあこんなのどうですか!
課長:お?
大原:最初は緑の葉っぱに包まれてる塊みたいな見た目なんですけど、葉っぱがめくれて黄色い粒が見えると同時に手足がはえて動き出すんです。
課長:ギミックを仕込むのか。確かにそれなら個性付けにもなるな。
大原:勿論現実的にそれが作れるなら、ですけど……どうでしょう?
職人:……作れるな。というか作ったことあるな。
大原:え?
職人:葉っぱがめくれるのもそうだが粒一つ一つが弾けてポップコーンになる着ぐるみだな。
大原:あ、もうあるんですか……
課長:じゃ、じゃあ他のものにしようか。
大原:それならヘチマなんてどうでしょう。美容効果もありますから、若い女性に興味をもって貰えるかもしれません!
課長:ヘチマ化粧水か。それなら着ぐるみの中に化粧水を仕込んでおいて頭からスプレーみたいに吹き出すとか面白そうじゃないか?
大原:さすがにそれは難しいと思いますよ。
職人:……作れるな。というか作ったことあるな。
課長:え?
職人:化粧水を吹き出すのもそうだが、自由に動かせる蔓(つる)も付いてる着ぐるみだな。
大原:(小声で)課長、この人ホントに凄い人なんじゃ……。
課長:(小声で)ああ、俺もここまでとは思わなかった……。
職人:どうかしたか?
大原:あ、いえ。安曇さんは何か思い付きませんか?その、名産品とか。
職人:名産かは知らないが、この辺りはキンモクセイが毎年綺麗に咲いているな。
課長:キンモクセイの香りがするキャラクター……良いかもしれないな。
大原:その香りを香水として売り出してみたら地域も盛り上がるんじゃないでしょうか!
課長:それなら地域産業の活性化にもなるな!
大原:香りをつけるくらいならそう難しくないですよね!
職人:……作れるな。というか作ったことあるな。
課長:おお!
職人:キンモクセイのキャラクターを作ってキンモクセイの香りをつけた色んな商品を売り出してた町があったな。
大原:だーっ!全部先越されてるじゃないですか!
課長:うーん、あとこの町で有名なものと言えばぬいぐるみくらいしかないぞ。
大原:そんなありきたりなものもうあるに決まってるじゃないですか!安曇さんだって絶対作ったことありますよ!ね!
職人:……ないな。
大原:え?
職人:作ったことないな、ぬいぐるみ。
大原:ないんですか、ぬいぐるみ。
課長:いけるんじゃないか、ぬいぐるみ。
大原:でも何のぬいぐるみにするんですか?
課長:確かに熊のぬいぐるみをモチーフにしても、それはぬいぐるみじゃなくて熊のキャラクターになってしまうからな。
職人:継ぎはぎのデザインにすれば少しはぬいぐるみらしく見えるんじゃないか?
大原:後は……たくさん用意するのはどうですか?犬とか猫とか、あと象とか!
課長:たくさんいるヒーロー……戦隊か!だとしたら『オオイマン』じゃなくて『オオインジャー』だな。
職人:センタイとはなかなか作りがいがありそうだな。腕が鳴るというものだ!
大原:それじゃあ、デザインはお任せしますので、戦隊になるようにお願いします。
職人:わかった。継ぎはぎのぬいぐるみの着ぐるみでいいんだな。来月までに役所に届けるよ。
課長:急に来て依頼までして悪かったな、安曇。出来映え期待してるぞ。
職人:おう、ワシに任せとけ。

 

 課長、大原退場。 

 【場面転換】

 

◇後日。大井市役所、ふるさと振興課。
 狭い部屋で課長と大原が仕事をしている。

 

課長:『オオインジャー』の企画も煮詰まってきたな。
大原:役者さんもステージも手配できましたし、あとは着ぐるみが届くのを待つだけですね。
課長:これで市長の小言も収まってくれるといいんだが。

 

 と、デスクの電話が鳴る。

 

課長:ん、電話か?大原、出てくれ。
大原:わかりました。
   はい、こちらふるさと振興課です……あ、わかりました。
   課長!表に着ぐるみが届いているらしいです。
課長:噂をすればだな。よし、出来映えを見に行こうじゃないか。
大原:はい。なんだか楽しみですね!

 

◇大井市役所、正面玄関。
 大型トラックが列をなしている。

 

課長:これが、全部……着ぐるみか。
大原:トラックがひい、ふう、みい……まだ来るみたいですね。
課長:大原、すぐに安曇に電話してくれ。
大原:あ、はい。わかりました。

 

 そう言っている間にもトラックが続々と市役所に入り、大量の着ぐるみが荷下ろしされていく。

 

課長:一体どうなってるんだ?
大原:課長、安曇さんと繋がりました。
課長:代わってくれ。
課長:おい、安曇!なんだこの着ぐるみの量は!「戦隊」って言っただろ?
職人:(電話ごし)おお、届いたか。力作だぞ?流石に「千体」用意するのは骨が折れたが、なかなか楽しい仕事だったぞ。
   おっと、次の依頼が詰まってるから、また何かあったら言ってくれよ。じゃあな。

 

 電話が切れる。

 

課長:おい、安曇?安曇!?……切りやがった。
大原:課長、安曇さんはなんて?
課長:戦隊……?
大原:あの、課長?
課長:着ぐるみセンタイ……?
   着ぐるみ千体……多いんじゃああぁぁぁぁ!!!

 

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