あずーるの物置

作品置き場(予定)

ボイスドラマ用シナリオ『神代機兵戦線』

神代機兵戦線

神代機兵戦争から数百年。かつて人類の剣となった機兵たちは『神機(じんぎ)』と呼ばれ、各国を守護する要となっていた。そして再び、戦乱の時代が訪れる……【男2:女2(兼役アリ)】

 

□登場人物

・カイ…新任技官の青年。成り行きから『神機』の操手となる。
・アカリ…ヒノモト国防軍中尉。ヒノモトの守護神と呼ばれる《ムラクモ》の操手。
・サナ…『宝剣』クサナギノツルギの因子を埋め込まれた生体端末。芯の通った性格。外見は10代前半の少女。
・ノカ…『宝剣』ヤタノカガミの因子を埋め込まれた生体端末。冷静沈着な性格。遺伝子的にはサナと同一。
・グリム…《アンサラー》を駆る所属不明勢力の操手。戦闘や破壊そのものを楽しむ気質。
・小隊長…ヒノモト国防軍の兵士。
・一般兵…ヒノモト国防軍の兵士。

 

※カイと小隊長、サナとノカ、グリムと一般兵、はそれぞれ兼ね役推奨。

※《ムラクモ》と《アンサラー》の間では通信は繋がっておらず、アカリ/サナとグリムの台詞は会話ではない。

※2024ー04/24、一部改稿。

 


□用語解説

・機兵…数百年前の神代と呼ばれた時代に開発された兵器群で、多くは人型をしている。現代でも主力兵器として生産されているが、神代当時の機兵には再現不可能な技術が多く用いられているため神代に生産されたそれの性能には遠く及ばない。そのため当時品は『神代機兵(ジンダイキヘイ/=神機)』として区別され、各国の軍事力の要として修復が繰り返されている。

・宝剣…『神機』の動力源。伝承の残る武具そのものであり、『神機』はそこに集められる信仰をエネルギーに変換することによって駆動する。信仰対象となる武具はその形状に関わらず『宝剣』と呼ばれる。

・《ムラクモ》…クサナギノツルギを動力源とするヒノモトの『神機』。長剣を主装備とし、バランスの取れた能力を持つが、やや器用貧乏。

・《ヤタカガミ》…ヤタノカガミを動力源とするヒノモトの『神機』。旧時代のステルス戦闘機に似た本体から二本の脚と尻尾のようなアームユニットを生やした空戦特化の機体であり、『神機』の中でも旧式機だと考えられている。

・《ヤタガラス》…《ヤタカガミ》を再現したヒノモトの機兵(書類上は可変戦闘機)で、動力源や操縦系統を除けば基本構造はほぼ同一。空軍の主力機となっている。

・《アンサラー》…フラガラッハを動力源とする旧ブリタニカの『神機』。外装の変更や火器の増設が行われており、神代当時の面影はない。

・《ハルバート》…欧州連合に配備されている陸戦型の機兵。バランスの取れたがっしりとした機体。

・《ファイアキャット》…合衆国が配備、輸出している戦闘爆撃機

 

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◇夜、オガサワラ諸島上空。
 数機の可変戦闘機《ヤタガラス》が編隊を組んで飛行している。


カイ:(小隊長)間もなく目標海域に入る。各機、警戒は怠るな!
グリム:(一般兵)その、本当なんでしょうか。あの海域に敵が潜んでいるというのは。
カイ:(小隊長)間違いないだろう。現に先行したグース小隊からの連絡は途絶えている。
グリム:(一般兵)……。
カイ:(小隊長)准尉は、実戦は初めてか。
グリム:(一般兵)はい。哨戒飛行の経験はあるのですが。
カイ:(小隊長)気を引き締めるのはいいが、気負いすぎるなよ。生き残れるものも生き残れなくなる。
グリム:(一般兵)は、はっ!

 小隊長、前方の小島に目を落とす。

カイ:(小隊長)ん、動体反応……?
グリム:(一般兵)何か光った――うわっ!?
カイ:(小隊長)対空砲だ、各機散開!准尉、無事か!?
グリム:(一般兵)装甲板が脱落しましたが、なんとか!
カイ:(小隊長)あれは……機兵か!
グリム:(一般兵)機影照合……欧州連合の《ハルバート》型です!数3!
カイ:(小隊長)クレインリーダーより司令部へ、敵機兵を確認した。座標を送る!
グリム:(一般兵)隊長、攻撃の許可を!
カイ:(小隊長)許可する!ただし、回避行動を優先しろ。機動性能はこちらの《ヤタガラス》が上だ、二度は捉えられるなよ!
グリム:(一般兵)了解!安全装置解除、撃ちます!
カイ:(小隊長)着弾を確認。反撃、来るぞ!
グリム:(一般兵)くっ!?駄目だ、火力負けしている!
カイ:(小隊長)各機、もう少しだけ耐えろ!、直にこちらの「本命」が来る。
グリム:(一般兵)本命……?

 一般兵、モニターに表示された接近警報に気づく。

グリム:(一般兵)隊長!後方から何かが急速に接近しています!ミサイルのようです!
カイ:(小隊長)来たか!!

 弾道ミサイルが小島に着弾し、砂煙と水しぶきが巻き上がる。

グリム:(一般兵)来たって、何が――
カイ:(小隊長)守神様(もりがみさま)のお出ましだ。

 地面に突き刺さったミサイルの中腹が大きく開き、そこから長剣を携えた一機の機兵がゆっくりと姿を現す。

サナ:指定座標に到達。輸送ポッド、正常にパージされました。
アカリ:まったく、この荒っぽいのはなんとかならないのか?
サナ:仕方ないじゃないですか、このやり方が一番速いんですから。
アカリ:操手の事も考えて欲しいものだよ。
グリム:(一般兵)……ミサイルの中から機兵が?
アカリ:クレイン小隊へ、この場は《ムラクモ》が預かる、いいな!
カイ:(小隊長)こちらクレインリーダー、了解した。
グリム:(一般兵)あ、あれって……!
アカリ:敵は3機か。時間はかけん!神装展開!!
サナ:――承認!『宝剣』、出力解放します!

 《ムラクモ》の持つ長剣の刀身が展開し、隙間から黄金の光が漏れ出す。

カイ:(小隊長)よく見ておけ、准尉。あれがヒノモトの剣――
アカリ:薙ぎ払え、アメノムラクモ!!

放たれた斬撃は雷光を纏った衝撃波となり、3機の《ハルバート》を一刀のもとに断ち斬る。

カイ:(小隊長)神代機兵(じんだいきへい)《ムラクモ》だ。
サナ:目標の撃破を確認。敵機の反応、ありません!
アカリ:状況終了、これより帰投する。

 

◇昼、旧トーキョー駅前。


カイ:えーっと、この辺りのはずなんだけどなあ……
アカリ:遅いぞ、タケハヤ!
カイ:あ、先輩!お久しぶりです!
アカリ:3分遅刻だ。
カイ:すみません、ちょっと迷ってしまって。
アカリ:故郷でか?と、言いたいところだが無理もないな。たった2年だが、この辺りも随分変わってしまった。
カイ:防衛区画整理、でしたっけ。役所や企業も分散しちゃって、かえって広々しましたね。
アカリ:ああ。見慣れた街が変わっていくというのは、案外寂しいものだよ。戦火による被害でないのが救いだな。
カイ:そりゃ、ヒノモトの守護神のお膝元ですからね。
アカリ:茶化すなよ。
カイ:茶化してる訳じゃないですよ。先輩の《ムラクモ》は国防の要だって、小学生でも知ってます。
アカリ:あいつの性能があれば、誰だって英雄になれるさ。タケハヤも操手の適性はあったんだろう?
カイ:シミュレーターは何回かやらされましたけど、俺にはやっぱり整備の方が合ってて。
アカリ:ふむ、キミと肩を並べて戦える日が来ると思っていたのだがな。
カイ:苦手なんですよ、神機と繋がった時の……自分が自分じゃなくなる感覚が。
アカリ:そのうち、そうも言っていられなくなる。
カイ:そんなに悪いんですか、戦況。
アカリ:どこもかしこも人手不足だ。今は海軍の防衛ラインが機能しているが、それもいつまでもつか……明日にはこの街も戦場になるかもしれん。
カイ:こんなに、平和に見えるのに。
アカリ:研修はヨコスカだったか、だったら艦隊の現状は見て来たんだろ?
カイ:……はい。おかげで整備士としての経験は積めました。
アカリ:そうか……まあ、こう言っておいて何だが安心しろ。私の手の届く範囲くらいは守ってみせる。
カイ:それは心強いですけど、そんなお方が俺みたいなのと出歩いてていいんですか?
アカリ:それとこれとは話が別だ。可愛い弟分が故郷に戻ってきたというのだから、少しでも早く会わねば損だろう?折角だ、父にも顔を見せていくと良い。
カイ:そのつもりです。師範はお元気ですか?
アカリ:ああ、ピンピンしているよ。先月の休暇でも、稽古を付けられた。
カイ:誰彼構わず口を開けば「手合わせ願おう」でしたからね。
アカリ:君も、今から覚悟しておいた方がいいかもしれんぞ?
カイ:怖いこと言わないでくださいよ……。

 

◇昼、都内某所。 


カイ:はー、全然変わってませんでしたね、師範。
アカリ:君の前だからだろう。最近は弟子も減って、張り合いが無いとぼやいていたからな。
カイ:そうなんですか?
アカリ:ああ。それで、久々の稽古はどうだった?
カイ:……疲れました。
アカリ:なかなか健闘していたぞ。
カイ:師範や先輩の教えあってこそですよ。目を開いて相手の動きを見る、それさえ出来れば自ずと対応は出来る。
アカリ:実践は出来たのか?
カイ:身体の方が付いて来ませんでした。
アカリ:暫く離れていたんだ、仕方ないさ。
カイ:もう少しやれると思ってたんですけどね。
アカリ:はは、精進精進……っと、もうこんな時間か。今日は付き合って貰って悪かったな。
カイ:いいえ、俺で良ければいつでも呼んでくださいよ。
アカリ:そうさせてもらおう。ではな。
カイ:あ、待ってください。送っていきますよ、ミシュクの駐屯地でしょう。
アカリ:その通りだが……私を守ってくれるということかな?
カイ:そう取って貰って結構です。
アカリ:もっとハッキリ言って欲しいものだな。
カイ:守ってみせますよ、先輩を。俺にだって、男としての面子ってものがありますからね。
アカリ:ふふ、言うようになったじゃないか。

 

◇夕、国防軍ミシュク駐屯地。


サナ:あっ、お帰りなさい、アカリ!
アカリ:サナ、待っていてくれたのか。ただいま。
サナ:もしかして、そちらの方が例の?
カイ:例の?
アカリ:ああ、タケハヤだ。紹介しよう、彼女はサナ、私の相棒だ。
カイ:サナさん、ですか。タケハヤ・カイです、来週から技官としてこの駐屯地にお世話になる予定です。宜しくお願いします。
サナ:こちらこそ、アカリがお世話になってます。
アカリ:おいおい、私が世話をされていると言うのか?
サナ:だってアカリったら、一週間も前からタケハヤさんの話ばかりしていたんですから。やっと帰ってきてくれるーって。
カイ:え、そうなんですか?
アカリ:あ、あー!いや、それは、別に……
サナ:ふふ。
アカリ:と、ともかく送ってくれてありがとうな、タケハヤ。
カイ:どういたしまして。それじゃあまた明日、改めて。
アカリ:ああ……ん?
サナ:アカリ、どうかしましたか?
アカリ:不味いな……タケハヤ!
カイ:あ、はい?
アカリ:第三区画のシェルターへ向かえ。私の名前を出せば入れてもらえるはずだ。
カイ:それって、どういう――
サナ:!駐屯地司令部より入電、本エリアに所属不明の機兵が接近しています!
アカリ:やはりか。サナ、《ムラクモ》の出撃申請を。
サナ:了解しました。
カイ:あの、いったい何が?
アカリ:敵が来ている、早く行け。
サナ:あ、失礼します!
カイ:敵……この街が、戦場に?

 

◇夕、トーキョー上空。


カイ:(小隊長)HQ、HQ!敵性『神機(じんぎ)』が防衛網を突破、依然有効打は与えられず……うあああっ!!!
グリム:けっ、この国の軍隊ってのはこの程度か。羽虫が何匹出てこようと、この《アンサラー》に敵う道理はねえんだよ!!
アカリ:ならば、こいつはどうかな?
グリム:なに?

 《アンサラー》の直上から《ムラクモ》が落下しつつ斬りかかる。

サナ:回避運動見られず、直撃コースです!
グリム:上かぁ!
アカリ:はああっ!!
グリム:ぐっ……!?
アカリ:……浅かったか。
グリム:へ、へへ……ようやく出てきたか!ヒノモトの『神機』!
アカリ:これ以上被害を出す訳にはいかん……《ムラクモ》、推して参る!!
グリム:ちったあ楽しませてくれよ!!
サナ:敵機、急速接近!
アカリ:いなしつつ郊外へ誘き出す、いいな。
サナ:国防庁に具申……承認されました。
アカリ:よし、付いてこい!

 《ムラクモ》、ハンドガンを数発放ち《アンサラー》に随伴していた戦闘機を撃墜すると反転して距離を取る。

グリム:おおっと。見え透いた陽動だが、いいぜ、乗ってやる!
サナ:敵性『神機』、相対距離を維持しています。
アカリ:ほう、喰らい付いてくるか。
グリム:動きは素早いが……追って追えないほどじゃねえ!
アカリ:やはり『神機』、一筋縄ではいかないな。サナ、あいつのデータはあるか?
サナ:機影照合――該当なし。ですが『宝剣』の波導は旧ブリタニカの《フラガラッハ》と同一です。
アカリ:ブリタニカ?あれは大陸系の意匠だぞ。
サナ:そうですね、装甲形状はむしろ連邦の《サモセク》型に近いかと。
アカリ:となると、欧連の正規改修機ではなさそうだな。データはリアルタイムで転送しておけ。
サナ:はい!
アカリ:さて、そろそろ頃合い……っ!?

 《アンサラー》の放ったマシンガンの銃弾が、《ムラクモ》を掠める。

グリム:いつまで追いかけっこを続けるつもりだぁ?
アカリ:向こうもしびれを切らしたか。
グリム:教本通りの機動はなぁ、読めるんだよ!!
サナ:左推進機に被弾、出力維持に問題ありません!
アカリ:当ててきた?よくもやる!
サナ:アカリ、ミサイルにロックオンされています!
グリム:こいつで墜ちやがれ!!
アカリ:問題ない……ふっ!
グリム:爆発しねえ?弾頭を斬り落としたってのか!
アカリ:やあぁぁぁぁぁっ!!

 反転した《ムラクモ》は長剣を抜き放ち、《アンサラー》と切り結ぶ。

グリム:ちいっ!
サナ:っ……!
グリム:パワーは、互角ってとこかぁ?
アカリ:……押し切れんか!
サナ:っ!敵機の胸部に固定火器があります、離れてください!!
アカリ:何?
グリム:はっ!間に合うかよ!

 《アンサラー》の胸部に備えられた4門の機関砲が火を噴く。

アカリ:ううっ!?正面装甲を抜かれたか!
グリム:なかなかしぶといようだが、こいつでトドめだ!
アカリ:まだだ!
グリム:なにっ!?
アカリ:推進系さえ生きているなら!
グリム:くそっ、離れられねえ?このまま地面に叩きつけるつもりか!
アカリ:うおぉぉぉぉっ!!
グリム:ごふっ……!チクショウ、やりやがったな。
アカリ:はぁ、はぁ……サナ、機体バランスを再設定!
サナ:……。
アカリ:サナ?おいサナ、大丈夫か!
サナ:う……あ。
アカリ:腹部動力回路断絶……エネルギーの逆流か!すまん、私のミスだ……。
サナ:い、え……私が、もっと早く……。
アカリ:『宝剣』ユニットを排出する。今は少しでも負担を減らした方が良い。
サナ:ア、カリは……?
アカリ:なんとかこいつを仕留める。
サナ:無茶、です……撤退を……っ!
アカリ:私が退けば戦っている仲間は……街はどうなる?
サナ:それ、は……。
グリム:くそっ、いつまでも取っ組み合っていられるかよ!
アカリ:ほうら……こいつもまだやるつもりだ。サナ、無事でいろよ!

 アカリが緊急脱出装置のスイッチを入れると、背部から『宝剣』ユニットが分離し射出される。

グリム:何か撃ち出した?パイロットを脱出させたのか?
アカリ:予備動力接続……完了。さあ、続けるぞ。
グリム:っ!違うな、自律操縦の動きじゃねえ。だったら逃がしたのは『宝剣』の方か!
アカリ:はあっ!
グリム:くっ!だが、なんだこの気迫は?
アカリ:せえいっ!
グリム:むしろ前よりも出力が……ぐうっ!
アカリ:やああぁっ!
グリム:『宝剣』なしでここまでやるかよ……いや、逆か?この操手、『宝剣』以上に信仰を集めてるってのか!
アカリ:やはり、一人では堪えるな……だが!!
グリム:ぐうっ!!?面白ぇ……面白ぇぞ、ヒノモトのォ!!

 

◇ミシュク駐屯地、シェルター。


カイ:うわっ!また揺れた……!
ノカ:だから、操手を一人寄こしてくれと言ってる。
グリム:(一般兵):無理ですよ、もう訓練生まで出払ってるんです!それに、《ムラクモ》と互角の相手に『神機』といえど一機や二機の増援では……
カイ:先輩が!どうかしたんですか!
グリム:(一般兵):な、君!シェルターから出てきちゃ――
カイ:《ムラクモ》が追い詰められてるって……それじゃあスメラギ先輩は!
ノカ:君は……?
カイ:あ、サナさん?先輩と一緒なんじゃ……
ノカ:サナを知っている……君、操手の経験はあるか?
カイ:え、ええと適性試験と整備講習でシミュレーターを何度か。それと、《ヤタガラス》の耐G訓練も。
サナ:軍籍データ照会……新任の技官か。素人よりは確実だな。アカリの救援に向かう、着いて来い。
グリム:(一般兵):まさか、彼に『神機』を預けるつもりですか!
ノカ:僕が許可した、その権限はあるはずだ。
グリム:(一般兵):それは、そうですが……
ノカ:君も、いいな。
カイ:……そうも言っていられなくなる、か。
ノカ:何?
カイ:いえ、行きます。
ノカ:ありがとう、名前は?
カイ:カイ。タケハヤ・カイ!
ノカ:僕はノカ、宜しく頼む。
カイ:ノカ……って、それじゃあ、ヤタノカガミ!?
ノカ:ノカでいい。操手が『宝剣』に気を遣うな。
カイ:ヒノモトの『宝剣』は生体端末に埋め込まれてるとは聞いてたけど、その……こんなに人間らしいとは思ってなくて。
ノカ:あの戦争から数百年分の蓄積があるからね、それなりにヒトらしく振舞えるものさ。
カイ:……なんか、ごめん。
ノカ:いいよ。最初は大抵そういう反応をする。
カイ:それじゃあやっぱりサナさんも……
ノカ:ああ、あれが『宝剣』クサナギノツルギだ。言いたいことは分かる、もっと威厳のある存在だと思っていたんだろう?
カイ:う……うん、まあ。
ノカ:昔はああじゃなかったんだけどな、アカリと組むようになってからよく笑うようになった。
カイ:そうなんだ……もしかして、ノカも?
ノカ:さあな。よし、着いた。操手席は前だ、乗ってくれ。
カイ:これが《ヤタカガミ》……《ヤタガラス》の原型機か。操縦系は《ムラクモ》と同じだったよな?
ノカ:ああ。イメージすればいい、この機体が自分の身体だってイメージを。
カイ:人型じゃないのは初めてなんだけど……神経接続お願い。
ノカ:少し痛むぞ。
カイ:っ……う!よし、繋がった。腕は確か、ここに一本……あった。
ノカ:両腕を束ねるように扱うんだ。細かい操作はこちらで補助する。
カイ:肩が、ここで……胸、背中、翼があって……これが脚だ!
ノカ:操手の接続を確認。
カイ:逆関節……想像より変な感じだけど多分、いける。
ノカ:準『宝剣』ヤタノカガミ、認証。動力回路、繋ぐぞ。
カイ:エネルギー供給……来た。動作正常、全機能異常なし!
ノカ:敵の攻撃が止んでいる、今のうちに離陸を。
カイ:分かった。(深呼吸して)翔ぶぞ、《ヤタカガミ》!
ノカ:離陸確認、脚部を収納する。
カイ:ぐっ……大丈夫、推進機の扱いはシミュレーターと同じだ。
ノカ:飛行姿勢安定、やるな。
カイ:先輩の《ムラクモ》は……何かこっちに来る、あれか?
ノカ:違う、戦闘機だ。機影照合――《ファイアキャット》型、数5。恐らく基地を攻撃していた連中だな。
カイ:戻って来たのか!
ノカ:構っている暇はないが、ここで仕留めておかないとアカリの方に敵を引き連れて行くことになる。
カイ:コイツの武装は確か機首の機関砲と……マニュピレータにも何か持ってるな。
ノカ:機兵用のレールガンだ。迎撃は僕がやる、カイは機体の制御に集中してくれ。
カイ:分かった、助かる!
ノカ:火器管制システムに接続、安全装置解除。
カイ:う、撃ってきた!
ノカ:慌てるな、そう簡単に『神機』の正面装甲は抜けないさ。
カイ:信じた……突っ込むぞ!!
ノカ:……今だ!
カイ:2つ墜ちた、あと3つ……上を取られた?
ノカ:っ……射角外か。
カイ:銃が相手の方に向けられればいいんだろ、だったら!
ノカ:カイ、何を……
カイ:機体を横にロールさせる!それで狙えるだろ!
ノカ:できるのか。
カイ:やってみせる。ふっ……ぐぅ!
ノカ:よし、捉えた。
カイ:おおおっ……!
ノカ:ひとつ……ふたつ!
カイ:あと1機……そこだっ!
ノカ:正面、貰った……!
カイ:やった……パイロットは?
ノカ:落下傘をいくつか確認している、捕虜にできれば御の字だが……
カイ:今は先輩の方が先決か。
ノカ:そういうことだ。後は基地の守備隊に任せよう。
カイ:《ムラクモ》の反応は?
ノカ:ここからなら、十一時方向におよそ2500。
カイ:地形データを……サンセイのビルがあった辺りか。通信は?
ノカ:妨害電波が酷いな、もう少し近づけば……よし、入った。《ムラクモ》、応答してくれ。アカリ、サナ!

 ノイズ数秒、続いて通信が繋がる。

アカリ:――その声、ノカ、か?《ヤタカガミ》を出したのか!
カイ:先輩!
アカリ:驚いた……操手はタケハヤか。どうしてそこに、と言いたいが、そんな暇もなさそうだな。
ノカ:アカリ!……サナはどうした?
アカリ:先に、脱出させたよ。後で拾ってやってくれ。
ノカ:脱出って、それじゃあアカリは今――
アカリ:ぐ、うっ……!御覧の、通り、戦闘中だ!
カイ:すぐにそっちに降ります。だから、それまで!
アカリ:言われずとも善処、するよ!はあああっ!!
カイ:ノカ、神装は使える?
ノカ:なるほど、奇襲をかけるつもりか……承認。『宝剣』、出力を開放する!
カイ:光学迷彩が『神機』相手にどの程度効くかは分からないけど!
ノカ:問題ない、あの戦争の頃も僕を捉えた『神機』は居なかった。
カイ:お墨付きって訳か!見えた、《ムラクモ》と……敵の『神機』!
ノカ:一度速度を上げて二機の間を抜けよう、相手の気を逸らすだけでいい。
カイ:分かった。高度下げ……ここだな!ノカ、牽制射!
ノカ:ああ。
グリム:何だ!?
カイ:抜けた、いいぞ!
グリム:レーダーに映ってなかったぞ、ステルスか!コイツ、良い所を邪魔しやがって!
アカリ:タケハヤ!奴の推進系はもう使えない、そのまま上空から掩護してくれ!
カイ:は、はいっ!
アカリ:ノカ、しっかりサポートしてやってくれよ、可愛い後輩に怪我をさせでもしたら……解ってるな!
ノカ:勿論だ。
グリム:二対一かよ!
アカリ:さあ、行くぞっ!
カイ:ノカ、射撃は任せた!
ノカ:ああ。
グリム:ちっ!五月蠅いハエがチョロチョロと!
アカリ:ふっ、やはり良い動きをするじゃないか!タケハヤ!
グリム:くそっ、テメェも手負いだろうに急に活き活きしやがって!
アカリ:可愛い弟分の前だ、少しは良いところを見せてやらんとな!
グリム:ぐ、があっ!畜生……こいつは温存しておくつもりだったが、計画変更だ。悪く思うなよ、リーダー。
カイ:動きを止めた?今だ!
アカリ:っ……離れろ、タケハヤ!何かして来るぞ!
カイ:え……うわぁっ!?
ノカ:くっ、光を纏って……あの『神機』の神装か。だが、あれだけの出力では……
グリム:もって5分ってとこか。それだけありゃ充分だ……さあ、復讐の刃!俺に応えてみせろォ!!
カイ:装甲が内側から剥がれてる?自壊覚悟の奥の手か!
グリム:そォらああっ!!
アカリ:ぐうあっ!?
カイ:なんだ、あの動き!本当に人が乗ってるのか!?
ノカ:《フラガラッハ》の神装は、機体の限界を超えて装手の想像した動きを形にする
グリム:どうした!テメェはそんなもんじゃねェだろ、ヒノモトのォ!
アカリ:くっ、流石に疾いな……だが、見えない動きじゃない!
グリム:何?
アカリ:認識さえ出来てしまえば――
グリム:外れた……外しただと!?
アカリ:そこだぁっ!
グリム:がっ……!
アカリ:もう、一撃!
グリム:基幹フレーム破損?く、そぁっ!
アカリ:何……くっ!まだ、動くか!
ノカ:不味い、自壊が始まっている……カイ、離脱するんだ、巻き込まれるぞ!
アカリ:でも、先輩が!
グリム:せめてテメェだけでも連れて行かせて貰うぜ、ヒノモトのォ!!
ノカ:アカリ、君も脱出装置を!サナもすぐに回収する!
アカリ:来るな!
カイ:っ……!
アカリ:私に組み付いてくれるとは僥倖だ。どの道ここで爆発させれば、街にまで被害が及ぶ!
グリム:何?どこにこんな力が残って……っ!
アカリ:ノカ!爆心地として最適な座標を指定してくれ!
ノカ:……近くに放棄された漁港がある。周辺住民も退去済みだ。
カイ:ノカ!?
ノカ:……。
アカリ:ありがとう。もう少しだけ頑張ってくれよ《ムラクモ》!

 《ムラクモ》の推進機が火を噴き、《アンサラー》を抱えたまま移動を始める。

アカリ:タケハヤもすまないな、折角ここまで来てくれたというのに。
カイ:っ……悪いと思ってるなら、一緒に来てくれれば!
アカリ:はは、これも性分なのさ。言っただろ、手の届く範囲は守ってみせるとな。
カイ:そ、んな……だからって!
アカリ:最期にお前と共に戦えて、私は嬉しかったよ。やはりお前は、私が見込んだ通りの男だった。
カイ:何を、言ってるんですか。
アカリ:我儘かもしれないがサナと……後の事を頼みたい。
カイ:後の、事。
アカリ:分かるだろ。今のヒノモトには守護神が必要なのさ。
カイ:……馬鹿な事言わないでください!俺は、先輩みたいには……
アカリ:やれるさ。タケハヤなら、きっとやれる。お前は私を――

 刹那、《ムラクモ》の向かった方角に明るい光球が現れ、次いで轟音が響き渡った。

カイ:先輩?スメラギ先輩!!
ノカ:《ムラクモ》の反応、消失……っ!
カイ:嘘だ、嘘だ!先輩、応えてくださいよ!ねぇ!!あ……ああ、くぅ……
ノカ:カイ……

 やや間あって。

カイ:……何が、「守る」だ。何が男としての面子だ!
ノカ:カイ、落ち着け。君は――
カイ:言ったんだよ、俺は!先輩を守るって!!カッコつけて言ったんだ!!でも結局俺は何も――!!
ノカ:ちゃんと、守ったじゃないか。
カイ:え?
ノカ:《ムラクモ》単機ではあの『神機』は抑えきれなかった。君が《ヤタカガミ》に乗ってくれたから、アカリは勝てた。だから選べたんだ。君や、サナや、この街をあの炎に巻き込まない選択肢を。
カイ:あ……
ノカ:誇れ。君が守った街だ。アカリの想いを、覚悟を無碍にするな。
カイ:先輩の……そう、か。最初から同じだったんだ。俺が先輩を守りたいって思った気持ちと、先輩が街を守りたいって思った気持ち。
ノカ:ああ。
カイ:だから、託された?先輩が守ろうとしたこの町を、この国を……。
ノカ:カイ、僕は……いや、僕もアカリの遺志を汲みたいと思う。
カイ:え?
ノカ:君を、《ムラクモ》の次期操手に推薦したい。受けてくれるか。
カイ:俺が……先輩みたいに。
ノカ:強制はしない。だけど、サナもきっと認めてくれるはずだ。
カイ:お、俺は――俺は、先輩の守りたかったこの国を守りたい。そのために出来る事があるなら、なんだってやってみせる。
ノカ:準『宝剣』ヤタノカガミ。君の想いと覚悟、確かに受け取った。


◇早朝、某所。


グリム:ぐっ、はぁ……ってて。まさかこんな所で《アンサラー》を使い潰すことになるとはなぁ、大した女だよまったく……さあて、助けが来るのが先か、ヒノモトの軍隊に見つかるのが先か。どっちだろうなあ?

 

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