あずーるの物置

作品置き場(予定)

ボイスドラマ用シナリオ『Foolish』

Foolish

歩行戦車の開発は、現代戦のありかたを大きく変えた。そんな中、敵国の新型機《デュランダル》と交戦し隊員を失ったアルマーニュ軍26小隊の下に、一人の補充兵があてがわれた……。【男3:女1(兼役アリ)】

 

□登場人物

・エリゼ少尉…アルマーニュ軍の軍人、26小隊の女隊長。
・ロッシ軍曹…26小隊の隊員。エリゼの部下で同期。
・バーンズ軍曹…26小隊の隊員。エリゼの部下で同期。
・クリス上等兵…26小隊に配属された補充兵の青年。正体はフランツ軍の新型機《デュランダル》のパイロット。
エドガー准尉…38小隊の隊長。叩き上げ。

※バーンズとエドガーは兼ね役推奨。


□用語解説

アルマーニュ…架空の国家。フランツと戦闘状態にある。
・フランツ…架空の国家。アルマーニュと戦闘状態にある。
・《シュラーク》…アルマーニュ軍の主力歩行戦車。
・《デュランダル》…フランツ軍の新型歩行戦車。

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◇フランツ軍軍事基地周辺。
 三機の《シュラーク》がスラスターを吹かせて撤退していた。


ロッシ:ったく……ツイてねぇ!まさか新型と鉢合わせちまうとはな!
バーンズ:なに、思わぬ収穫だったと思えばいい。まだデータにない新型の情報なら、良い土産になる。
エリゼ:バーンズの言う通りだ、何としてもこの情報は持ち帰らねばならん。

 その時、一条の光線がロッシの《シュラーク》の左肩を掠める。

ロッシ:っ……!あの距離から狙ってくるのかよ!
エリゼ:各機散開、捉えられるな!
バーンズ:……隊長。
エリゼ:なんだ、バーンズ。今は喋っている暇は――
バーンズ:俺がヤツを引き付ける、その間に隊長たちは離脱を。
ロッシ:な……おいバーンズ!正気か!?
バーンズ:相対距離が近づいてる、このままだとすぐに追いつかれて三人共お陀仏だ。それだけは避けなくちゃならない。
ロッシ:……。
エリゼ:バーンズ……分かった。
ロッシ:隊長!
エリゼ:だが死ぬな、これは命令だ。
バーンズ:了解。

 バーンズの《シュラーク》は転進し新型機へと向かって行く。

クリス:一機転進した……あの機体、囮になる気か?
バーンズ:まずは、こいつだ!

 肩部のマルチランチャーから閃光弾が放たれる。

クリス:閃光弾だと!?小癪な真似を……。
バーンズ:新型だろうと、目が見えなくてはな!
クリス:くっ……!
バーンズ:そのレーザー兵器だけでも奪わせて貰う!

 《シュラーク》のマシンガンが火を噴き、新型機のライフルを破壊する。

クリス:銃をやられた?
バーンズ:よし、これで……
クリス:だがっ!

 新型機は《シュラーク》に組み付く。

バーンズ:があっ……もうカメラを復旧させたのか。
クリス:腕は良いようだが、機体性能が違うんだよ!
バーンズ:っ……振りほどけん……!
クリス:手を煩わせてくれたが、これで終わりだ!

 轟音が響き渡る。

ロッシ:嘘だろ……003(まるまるさん)シグナルロスト!
エリゼ:バーンズ……死ぬなと言ったはずだぞ。
ロッシ:おい003、応答しろ!バーンズ!

 通信機からはノイズが流れている

エリゼ:……ロッシ、今は撤退する事だけを考えろ!
ロッシ:……。
エリゼ:爆発音はかなり遠かった、あの距離では新型機も追いつけまい。バーンズが稼いでくれた時間を無駄にするな。
ロッシ:くそっ……了解。

 

アルマーニュ軍前線基地


エリゼ:ふぅ……。
ロッシ:緊張してるのか、隊長?
エリゼ:まあ、な。着任する補充兵……ローレンツ上等兵だったか。
ロッシ:ああ、臨時徴集だってよ。
エリゼ:バーンズ軍曹……いや、准尉の抜けた穴を埋められる者であればいいが。
ロッシ:准尉ねぇ……偉くなっちまってまぁ……。

 部屋の扉がノックされる。

ロッシ:お?
クリス:失礼します、クリス・ローレンツ上等兵であります。本日付けで26(にーろく)小隊に着任致しました。
エリゼ:待っていたぞ。私はエリゼ・ファーレンハイト少尉、26小隊の隊長だ。
ロッシ:ロッシ・ウェーバー軍曹だ。よろしく、新人クン。
クリス:は、はい。宜しくお願いします。
ロッシ:蒼い目か……由緒正しいアルマーニュ人って感じだな。
クリス:え……あの……。
エリゼ:おい、ロッシ。あまり困らせるんじゃない。
ロッシ:おっと失礼。
エリゼ:まったく……さて、着任早々で悪いがお前の腕前が見たい。
クリス:え……?
エリゼ:整備班に模擬戦の準備をして貰っている。第三格納庫だ、ついて来い。
クリス:りょ……了解!
ロッシ:……隊長だって困らせてるじゃねぇか。

 

アルマーニュ軍前線基地第三格納庫
 模擬戦の用意が整い、エリゼとクリスは《シュラーク》に搭乗し向かい合っている。


エリゼ:マニュアルは読んでいるとは思うが、《シュラーク》の基本武装はマシンガンと胸部の機関砲、両脚部に収納されているナイフだ。
ロッシ:一応言っとくと、模擬戦用に射撃武装はペイント弾、ナイフは軟質素材のダミーだから安心しろよ。
エリゼ:今回は先に頭部かコクピットに当てた方の勝ち、いいな?
クリス:わ、わかりました。
ロッシ:んじゃ……始め!

 

 模擬戦終了、機体は両機とも塗料に塗れている。

クリス:はぁ……はぁ……。
エリゼ:なかなかやるじゃないか、上等兵
クリス:はぁ……ありがとうございます。
ロッシ:隊長がここまで被弾するのも珍しいよな。
エリゼ:ああ。私もまだまだという事だな。ローレンツ上等兵
クリス:はい。
エリゼ:少し休んだら機体の整備を見学させて貰え。自分の乗る機体の構造やクセくらいは知っておいた方が良い。
クリス:了解しました。

 クリスを格納庫に残し、エリゼとロッシはその場を後にする。

エリゼ:なあロッシ、どう思う。
ロッシ:新人クンの腕前か?かなりのモンだ。隊長と互角に戦えるやつなんてそうそう――
エリゼ:正直に言ってくれ。
ロッシ:……あの新人、手加減してたな。
エリゼ:やはりそう思ったか。
ロッシ:そりゃあな。だいたい、末端部にあそこまで命中させておいてコクピットが狙えない訳ないだろう。
エリゼ:ああ。私を仕留めるタイミングはいくらでもあった筈だ。なのに、そうしなかった。
ロッシ:隊長のプライドに気をつかったのかねぇ。
エリゼ:……。
ロッシ:隊長?
エリゼ:……ロッシ、ひとつ頼みたい事がある。
ロッシ:あん……?

 

◇一週間後、フランツ軍軍事基地周辺


エリゼ:作戦目標達成、帰還するぞ。
クリス:了解!
ロッシ:了解。クリスも大分板についてきたな。
クリス:だといいんですけど。
エリゼ:……今回はあの機体は出てこなかったか。
クリス:え?
ロッシ:あの新型か。前に会ったのは確かここの近くだったな。
エリゼ:ああ、あれ以来目撃情報が無いのが気にかかるが――

 通信機が鳴る。

エドガー:26小隊、聞こえるか。
エリゼ:エドガー?どうした、38(さんはち)小隊は撤退中だったはずだろう。
エドガー:いや、アンタには伝えといた方がいいと思ってな。
エリゼ:何のことだ、はっきり言え。
エドガー:《シュラーク》263(にーろくさん)番機、アンタんとこの機体だろ。
クリス:!
エリゼ:バーンズの、機体……。
ロッシ:見つかったのか……?
エドガー:コクピットも含めてほとんど焼け焦げてるが、なんとか識別番号は確認できた。
エドガー:基地にはウチの隊で届けてやるよ。
エリゼ:そう……か。
ロッシ:よく鹵獲されずに残っててくれたな……。
エドガー:敵さんにも余裕が無かったんだろうさ。それか、既に《シュラーク》に回収する価値が無いと思われてるか、だな。
エリゼ:すまない、連絡感謝するよ。
エドガー:おう、じゃあまた基地でな。

 通信が切れる。

クリス:バーンズさん……?
ロッシ:お前の前任だよ、この区域で新型機と戦ってロストした。MIAって奴だ。まあ、機体が発見されたからには正式な戦死認定が下りるだろうがな。
クリス:……。
エリゼ:あの新型……次に会ったら必ず墜としてやる。
クリス:……あの……隊長?
エリゼ:あ、ああ、すまん。いかんな、冷静になろうと思っているのだが。

 クリス、ロッシの機体に個別回線を開く。

クリス:あの……ロッシ軍曹、隊長とバーンズさんって……。
ロッシ:軍学校の同期だった、俺も含めてな。まあ俺とバーンズは普通科で、隊長は士官候補生だったんだが。
クリス:あ……すみません。
ロッシ:別に、気にするなよ。ほら、俺達のホームが見えてきたぜ。
クリス:……。

 

アルマーニュ軍前線基地


ロッシ:《デュランダル》……?
エリゼ:ああ、バーンズをヤった新型の名前だ。諜報部(ちょうほうぶ)が手に入れたデータを見せて貰ったが、あの機体の事で間違いない。
クリス:デュランダルというと、フランツの伝説にある剣……ですか。
エリゼ:詳しいんだな。
クリス:ええ、まあ……。
ロッシ:んで、スペックは?
エリゼ:出力は《シュラーク》の約2.5倍、作戦継続時間は多少短いがな。内蔵武装は頭部と胸部の機関砲と腕部のスタンナックル、それに加えて携行火器として新型のレーザーライフルを装備しているらしい。
ロッシ:あの時撃ってきたやつか。
エリゼ:ああ。正直、性能差は圧倒的だ。上層部では第二世代機と呼ばれているらしい。
ロッシ:なるほどなぁ、《シュラーク》は第一世代って訳ね……んで、勝算は?
クリス:え……ロッシ軍曹?
ロッシ:なんだ。
クリス:まさか、戦おうって言うんですか?
ロッシ:当たり前だろ。
クリス:無茶です!こんな性能差……勝てるわけ無いじゃないですか!
エリゼ:人の操るものならば、攻略法はある。
ロッシ:ああ、例えばこの《デュランダル》なら、胴部の厚みとかな。
クリス:え……?
エリゼ:装甲や燃料タンクを盛りすぎなんだ、腕部の可動域を阻害している。
ロッシ:高速機動戦闘なら良いんだろうが、屋内なんかで後方から攻めれば楽勝さ。ま、都合よくそんな状況になる訳は無いんだが、攻略法のひとつではある。
エリゼ:完璧な機体など存在しないということさ。
クリス:そうは言いましても――。
エリゼ:別にお前に付き合えと言っている訳ではない。もしヤツと遭遇した時は、私は撤退の指示を出す。
クリス:それって……?
ロッシ:俺達の意地に巻き込むつもりはないってことだよ。
クリス:……。
エリゼ:ふっ……私たちを愚かだと思うか?
クリス:ええ。
ロッシ:お、正直だな。そういうの嫌いじゃないぜ?
クリス:ですが……お付き合いしますよ。
エリゼ:ん?
クリス:僕も、26小隊の一員ですから。
ロッシ:ぷっ……はははっ!
エリゼ:ふふ……。
クリス:な、なんですか。
エリゼ:ローレンツ上等兵、お前も大概だな。
ロッシ:今日からお前も愚か者の仲間入りだ。

 

アルマーニュ軍前線基地第三格納庫
 サイレンが鳴り響いている。


ロッシ:おいおい、今更向こうから攻めて来やがったのか!
エリゼ:哨戒班は何をしていたんだ!

 先に出撃していた38小隊から通信が入る。

エドガー:こちら38小隊!応援はまだなのか!?
エリゼ:暖機中だ!苦戦しているのか?
エドガー:まあ……な!多分アンタらの言ってた新型だ!
エリゼ:!
ロッシ:おいでなすったか……。
エリゼ:分かった、すぐに向かう。ロッシ、クリス、いけるな。
ロッシ:おう。
クリス:こちらも暖機完了です。
エリゼ:エリゼ・ファーレンハイト、《シュラーク》で出撃(で)る!
ロッシ:ロッシ・ウェーバー、出撃(で)るぜ!
クリス:クリス・ローレンツ……行きます!

 三機の《シュラーク》がスラスターを吹かせて発進していく。

ロッシ:まさかこんな所でチャンスが巡って来るとはな。
エリゼ:ああ……ここで仕留めてやる。
クリス:っ……あれは!

 前線で《デュランダル》と交戦している38小隊が見えてくる。

エリゼ:エドガー、無事か!
エドガー:アンタか……なんとかな。
エリゼ:ボロボロじゃないか……戦況は?
エドガー:手柄を焦った11(いちいち)小隊のバカ共がヤられた。俺達もこのザマだ。
エリゼ:ここは私たちが受け持つ、お前たちは一度下がれ!
エドガー:悪いな……38小隊、一時撤退する!

 38小隊の三機が撤退していく。

エリゼ:さて……。
クリス:……。
ロッシ:会いたかったぜ、新型!
エリゼ:さあ、大人しくここで――

 と、辺りに煙が立ち込める。

ロッシ:な……煙幕?
エリゼ:どこから……くそっ、熱紋探知に切り替えろ!
クリス:……。
エリゼ:クリス、どうした?応答しろ!
ロッシ:003(まるまるさん)システムダウン!?おい、クリス!

 煙が晴れた後、クリスの《シュラーク》がコクピットを開いた状態で擱座(かくざ)していた。

クリス:ふふ……。
ロッシ:……やっぱりお前だったんだな、クリス。

 ロッシは《デュランダル》に呼びかける。

ロッシ:目的はこっちに漏れた新型機の情報を確認することかな?それでウチの隊の欠員に付け込んで新兵として滑り込んだ。
クリス:初めから知っていたような口ぶりですね、軍曹。
エリゼ:その通りだよ、ローレンツ上等兵
クリス:……?
ロッシ:臨時徴集の機動兵器乗り、それも前線配置だ。だからこそお前はクリス・ローレンツに高いパイロット適性があると踏んだ。
エリゼ:そして、私相手に実力を見せることで信頼を得ようとしたんだろ?だがな、教えてやる。クリス・ローレンツ上等兵パイロット適正は良くて中の下だ。
ロッシ:本物の『黒い目の』クリス君には悪いが、あんな腕じゃ一回目の出撃で地獄送りだよ。
クリス:……!?
エリゼ:生憎、ウチの隊は上から嫌われてるんだ。
ロッシ:ま、軍籍だけ偽装して本人の調査を怠ったお前もどうかと思うがな。
クリス:そこまで分かっていて……何故僕を泳がせていたんです?
エリゼ:決まっている。《デュランダル》のパイロットに勝ちたかったからだ。
クリス:え……?

 やや間

クリス:ふっ……ふふ……はははははっ!あなたたちは本当に愚かですね。
ロッシ:まあな。
エリゼ:よく言われるよ。
クリス:では、愚かなあなたたちにはこの《デュランダル》が引導を渡してあげますよ!
エリゼ:そう簡単に行くと思って貰っては困るな!

0:《デュランダル》の放つレーザーを、ロッシとエリゼは散開して回避する。

エリゼ:何処を狙っている?
クリス:っ……ちょこまかと!旧型で何故そこまで動ける!
ロッシ:こっちもリミッターを全部外してるからな、性能差は埋まってるはずだぜ。
エリゼ:長くは保(も)たないが。
クリス:っ……。
エリゼ:さて、そろそろ仕掛けさせて貰おうか!
クリス:熱源……三つ目?うわぁっ!!あれは……僕の《シュラーク》……!?
ロッシ:自分の機体くらい、無力化してから乗り換えるべきだったな。
クリス:遠隔操作か!
エリゼ:無人駆動さ、お前がその《デュランダル》を運んでこさせたのと同じな。
ロッシ:後ろを取ったぜ!
クリス:なっ!?

 後方を振り返る《デュランダル》。だがそこには何もいない。

ロッシ:嘘だよ!!
エリゼ:まずはレーダーを信用しろと教えたはずだぞ!

 隙を見てエリゼの《シュラーク》がマシンガンと胸部の機関砲を叩き込む。

クリス:ぐううっ……!なんでだよ……模擬戦じゃ僕の方が……!
エリゼ:新人に本気を出す訳が無いだろう。機体のデチューンくらいはしているさ。
クリス:くっ……だったら。
ロッシ:……?
クリス:ふふ……そっちの知らない動きをすればいい!
ロッシ:なんだ?動きを止めた……。
クリス:リミッター2番から8番を解除、ブースト閾値(いきち)をマイナス23に補正、燃料バイパス解放――
エリゼ:機体が……蒼く?
クリス:エグゾースト・モード……起動!
ロッシ:おいおい、こいつは不味いんじゃねえか?
クリス:はぁっ!
エリゼ:疾(はや)い!?

 《デュランダル》の左腕がエネルギーを纏い、クリスの乗っていた《シュラーク》を粉砕する。

ロッシ:003大破!一撃かよ……!?
クリス:次っ!
ロッシ:な……うわぁっ!!
エリゼ:ロッシ!
ロッシ:ぐ……う……。
クリス:あれ、おかしいな。コクピットを抉(えぐ)ったつもりなのに。
ロッシ:急所を外す術くらいは……心得てんだよ。
クリス:まあいい、その機体はもう動けない。
クリス:残るは隊長、あなただけだ。
エリゼ:っ……!
クリス:はあぁっ!
エリゼ:ぐっ!
クリス:避けたのか?流石によく動く……なら動きを封じさせて貰う!

 《デュランダル》が腰部からワイヤーを射出する。

エリゼ:それを待っていた!
クリス:なっ、ワイヤーを掴んだのか!?この武装の情報は漏れてなかったはずなのに……!
エリゼ:ああ、そういえばお前には伝え忘れていたんだったな。
クリス:くっ……離せ!機体が思うように……!エリゼ:今だ、ロッシ!
ロッシ:おうよ!!
クリス:まだ動けたのか……!
ロッシ:うおおおおおおっ!

 ロッシの《シュラーク》は倒れ伏した状態のままマシンガンを放つ。

クリス:右腕損傷甚大、腰部関節破損!?く……あっ……くそおっ!


 ロッシがマガジンの弾をすべて打ち尽くした後、《デュランダル》は四肢を撃ち抜かれて戦闘能力を失っていた。

エリゼ:コクピットを開けて投降しろ、ローレンツ上等兵
クリス:っ……。
エリゼ:なかなか素直じゃないか。
クリス:何故……殺さないんです。
ロッシ:何故って……。
クリス:バーンズとかいう人の仇討ちだったんでしょう?
エリゼ:馬鹿を言うな。軍人になったからにはそれくらいの覚悟はしている。それに、お前を殺してもバーンズは戻ってこない。
クリス:だったら――
ロッシ:言ったろ、意地だって。
エリゼ:ああ。私たちがお前とその機体に勝ちたいと思った、それだけだ。
ロッシ:それに、新型機の鹵獲に敵エースを捕虜にしたとなりゃ、大手柄だからな。
クリス:……。
エリゼ:ああ、そうだ。フランツの軍籍は持っているのか?
クリス:ええ、そりゃ……。
ロッシ:だったら安心だな。お前が脱走兵扱いで軍法会議に掛けられるとなりゃ俺達の評判が悪くなっちまう。
エリゼ:寝覚めも悪いしな。
クリス:ふっ……はははっ。
エリゼ:何がおかしい。
クリス:あなたたちはは……本当に愚か者ですね。
エリゼ:知っていただろう?
クリス:……ええ。

 通信機が鳴る。
 
エドガー:こちら38小隊、再出撃の準備ができた。戦況はどうなった?
エリゼ:終わったよ。敵新型機を撃破、並びにパイロットを確保。これより帰投する。
エドガー:え、マジ?
エリゼ:ああ。お前たちの出番はナシだ。さあ帰るぞ、ロッシ、ローレンツ上等兵

 

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