あずーるの物置

作品置き場(予定)

ボイスドラマ用シナリオ『選定の剣にまつわるあれやこれ』

選定の剣にまつわるあれやこれ

時は6世紀のブリテン島。内乱により息子(自称)共々命を落とした騎士王アーサー。王妃もランスロット卿と駆け落ちしキャメロットは統治者不在の事態に。何とかして後継者を探すべく魔法使いマーリンは動きだす。【不問3】

 

□登場人物

・マーリン…言わずと知れたブリテンの魔法使い。(この世界では)アーサー亡き後のキャメロットを預かっている。
・騎士A…ブリテン王に仕える騎士。その名は後世には伝わっていない。
・騎士B…ブリテン王に仕える騎士その2。その名は後世には以下略。

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キャメロット城内の一室。


マーリン:(M)時は6世紀のブリテン島。この地を治める騎士王アーサーの崩御によって国中に困惑が広まっていた……。


騎士A:これは困ったことになった。早急に次の王を選定しなくては。
騎士B:しかし唯一の跡取りカッコ自称カッコ閉じのモルドレッド卿もあの戦で倒れ王の血は途絶えてしまった!
騎士A:ああ困った。
騎士B:困った困った。
騎士A:……かくなる上は。
騎士B:なにか考えがあるのか。
騎士A:あれしかあるまい?
騎士B:……貴公もそれを考えていたか。
騎士A:なんと、貴公もか。
騎士B:うむ。やはりここは――
騎士A:私が王に。(同時に)
騎士B:私が王に。(同時に)

 二人、顔を見合わせてしばし思案。

騎士A:貴公、今なんと?
騎士B:貴公こそ何を言い出すかと思えば。
騎士A:貴公が王など……はっ!世迷い言も大概にせい!
騎士B:貴公にだけは言われたくないな!
騎士A:貴公の奇行にはもう堪忍ならん!どこぞに紀行にでも行くがよいわ!
騎士B:人の話すら聞こうとせぬ貴公が機構の主など、笑止!
騎士A:ぐぬぬ……!
騎士B:ぐぬぬ……!
マーリン:そこまでです。
騎士A:はっ……マーリン殿!
マーリン:きこうきこうと五月蝿いですよ、自転車でも漕いでいるんですか!
騎士B:マーリン殿、この時代に自転車は発明されておらんぞ。
マーリン:黙らっしゃい!
マーリン:良いですか、王の居ない今のブリテンは存亡の危機に瀕しているのです!王の子息カッコ自称カッコ閉じのモルドレッド卿も――
騎士A:――待て待て、その下りは先程終わったのだ。
マーリン:そうですか。なら話は早い。
騎士B:何か良い手だてがあるのか。
マーリン:これを使うのです。
騎士A:ほほう、これはまた随分と豪華な剣ですな。
騎士B:しかし……何故また抜き身で岩なんぞに刺さっているのだ?
マーリン:『エクスカリバー2』です。
騎士B:……いや、だから何故抜き身で岩なんぞに――
マーリン:黙らっしゃい!
マーリン:エクスカリバーと言えば選定の剣!それを抜けた者こそが王の資格を持つのです!そんなことも知らないとは……それでもブリテンの騎士ですか!!
騎士A:マーリン殿、資料によっては鞘があったり岩に刺さっていなかったりするようですぞ。
マーリン:え。
騎士B:私は湖の精霊から賜った剣だと聞いたことがあるな。
マーリン:あー…………えーと………………うん。
マーリン:コホン。これは『センテイソード』です。
騎士A:(小声)しれっと名前を変えましたな。
騎士B:(小声)安直ですな。
マーリン:黙らっしゃい!
マーリン:と、兎に角、この『センテイソード』を岩から引き抜いた者を王とすればよいのです。
騎士A:そう上手くいくものかな?
マーリン:やってみなければ分かりません。
騎士B:では、私が試してみても?
マーリン:ええ、どうぞ。
騎士B:ふっ…………。
騎士A:もし此奴が剣を抜けたらどうするのだね。
マーリン:『剣』ではありません、『センテイソード』です。
騎士A:……もし此奴が『センテイソード』を抜けたらどうするのだね。
マーリン:無論、この者を王とします。
騎士B:ふんっ!ふんんっ!!
マーリン:まあ、そう簡単に抜けるものではありませんがね。
騎士A:マーリン殿、それはフラグという奴ではないかな?
マーリン:……今のはナシでお願いします。
騎士B:ぬううぅぅぅぅぅっ!!
騎士A:って、おい貴公、無理をするでない。顔に血が登って真っ赤ではないか。
騎士B:はぁ……はぁ……びくともせんな。
騎士A:力自慢の貴公でも抜けんとは……確かに、これを抜いた者には王の資格があるのやもしれん。
マーリン:ふふん。そうでしょう、そうでしょう。
騎士A:しかしこんなものをどうやって作ったのだ?やはり魔法の……
マーリン:ええ、『アロン・オメガ』です。
騎士B:『アロン・オメガ』とな?
マーリン:以前編み出した結合呪文、『アロン・プサイ』を発展させたものですよ。とはいえ、古代呪文の『アロン・アルファ』には遠く及びませんが……
騎士A:マーリン殿、その名前は少々問題があるような気がするが。
マーリン:そうですか?
騎士B:まあまあ、効果は本物のようだし、良いではないか。
騎士A:それもそうだな。
マーリン:さあ、では早速外に設置してきますよ。二人とも、運ぶのを手伝ってください。
騎士A:ははっ。(同時に)
騎士B:ははっ。(同時に)


ブリテン島、森の街道。

騎士B:……これでよし、と。
騎士A:だがこれは……少々わざとらしくはないか?如何にも最近作ってここに置きました、と言っているような――
マーリン:それは織り込み済みです。
騎士B:おお、それは魔法の杖!
マーリン:これを、こうして……ほにゃほにゃ……おんきりきり、ふんぐるい……いあ、いあ、そわか……
騎士A:これまた仰々しい……
騎士B:おお、見ろ!剣がどんどん古びていくぞ!
騎士A:なるほど、これなら怪しまれはしなさそうだ。
騎士B:流石はマーリン殿、腐っても魔法使い。
マーリン:それは褒めているんですか?
騎士A:お、向こうから誰か来るようだぞ。
マーリン:……そこの茂みに隠れて様子を見ましょう。
騎士B:承知。
騎士A:あれは……近くに住む猟師のようだな。
騎士B:おっ、剣に気づいたぞ!
騎士A:むむ、怪しんでいる様子だが……まあ昨日まで何もなかった場所に剣が刺さっているのでは仕方ないか。
騎士B:ああっ、行ってしまった……
騎士A:結局手は触れませんでしたな。
マーリン:焦ることはありません。真の王の資格を持つ者は必ず現れるはずです。今はただ待つのです。
騎士B:焦らず気長に、ですな。
マーリン:よくわかっているじゃありませんか。


◇3時間後、同所。

マーリン:ええい、誰も彼も何故素通りするのですか!
騎士B:マーリン殿、抑えるのだ!まだ半日も経っていないではないか!焦らず気長にではなかったのか!?
マーリン:半日もあれば一人くらい剣を抜こうとする者がいてもおかしくないでしょうに!!まったく、こっちは急いでいるんですよ!
騎士A:む?マーリン殿、静かに。また誰か来るぞ、老婆のようだな。
マーリン:この際誰でも構いません!とっととエクs……『センテイソード』に手を掛けなさい!!
騎士A:あのような老婆が剣を抜こうとするとは思えぬが……
騎士B:いや、待て。立ち止まったぞ!あれは……!二礼、二拍手、一礼。
マーリン:なるほど、礼を忘れないとはあの老婆、見かけによらず騎士道を弁えているようですね。
騎士A:うーむ、騎士道と言うより……ん?何か置いているな。
騎士B:あれは……パンの欠片か。それに葡萄酒も。
騎士A:やはり礼拝の類でしたな。
マーリン:……そうじゃないっ!それは!そういう!物では!ないのですっ!!それはキャメロットにあった適当な剣に細工しただけなんですよ!!警戒するようなものでも!恭(うやうや)しく扱うようなものでも!ましてや祈るようなものでもないのです!!もっと軽率に抜きさらせやブリテン人!!王になりたくねえのか!!!
騎士B:マーリン殿、あまり大声を出しては……
マーリン:はっ!私としたことが、少々取り乱してしまいましたね。
騎士A:私としては、かなり頻繁に取り乱している印象があるのだが。
マーリン:黙らっしゃい。しかしこうも敬遠されるとは……
騎士B:やはり周知した方が良いのではないか?「この剣を抜いた者を王とする」と。
マーリン:え……あっ。
騎士A:『あっ』?マーリン殿……貴公まさか――
マーリン:か、かか、考えていなかった訳ではありませんよ!うん、そうですね。いやあ、このような手段は使いたくなかったのですが仕方ない、うん。すぐに領内に告示を!
騎士B:やれやれ……。


◇一か月後、キャメロット城内

マーリン:(M)「この剣を抜いた者を王とする」。そのお触れはブリテン島を駆け巡り、一両日中に全領民の知るところとなった。キャメロットには連日多くの王候補が詰めかけ『センテイソード』に挑んだが、王の資格を持つ者はついぞ現れなかった……。

騎士A:今日で、触れを出して一か月ですな。
騎士B:なかなか現れぬものですな。
マーリン:案ずることはありません、何事もなるようになるのです。
騎士A:初めは毎日のようにそわそわしていたマーリン殿も、今では修験者のようになってしまった。
騎士B:だがこの方が扱いやすくてよいではないか。
マーリン:聞こえていますよ。
騎士B:これは失敬。
マーリン:そういえば。
騎士B:む?
マーリン:貴方はまだ挑戦していませんでしたね。
騎士A:わ、私か?
マーリン:ええ。すっかり忘れていましたが、確かそのはずです。
騎士A:うむむ、私に資格があるとも思えぬが……。
マーリン:物は試しですよ。そろそろ話も終わらせたいところですし。
騎士B:マーリン殿、メタい発言は止した方がよいですぞ。
マーリン:(咳払い)失礼。さあ、どうぞ。
騎士A:ふむ……ふんっ!
騎士B:お?
騎士A:むむむ……
騎士B:おおっ!?
騎士A:……抜けて、しまった。おい、剣が抜け――
騎士B:(かぶせて)マ、マーリン殿、外を見られよ!
マーリン:なんですか、騎馬隊?あの旗印は……!
騎士B:外征に出ていたコンスタンティン卿ですぞ!
騎士A:あの――
マーリン:確かコンスタンティン卿は、王の血を引いているとかいないとか言われていましたね。
騎士B:こうしてはおられぬ、すぐさま事情を伝え即位していただかねば。
マーリン:そうですね、伝令を出しなさい。
騎士B:あいや、任された。
騎士A:マーリン殿、この剣はどうすれば良いかな。
マーリン:え、抜けたんですか!?うーん、しかし血は何よりも重いですし……ふむ、その『センテイソード』は貴方に預けましょう。
騎士A:剣だけ貰っても嬉しくもないぞ。
マーリン:話は最後まで聞くものですよ。もし、コンスタンティン卿が王となり圧政を敷くようであれば、その剣で王座を貴方の物にするのです。
騎士A:なんと、私に王を斬れと言うのか。
マーリン:いざという時は、です。貴方には王の資格がある、となれば貴方の判断もまた王として正しいものですから。
騎士A:……。
マーリン:では、私もコンスタンティン卿を迎えに出ます。留守は任せましたよ。
騎士A:……心得た。


マーリン:(M)時は6世紀のブリテン島。新たな王コンスタンティンはその血筋を故に即位した。この先の物語は、歴史に残るとおりである。


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